野球部の部室までボールを運んだ。3人がかりでもけっこうへとへとになる重さだ。こんなものを女子ひとりで運ばせるなんて鬼にも程があると、和穂とふたりで怒った。健太朗に言っておくねとコワイ顔をした和穂に、ユズちゃんはかなり恐縮している様子だった。
「ね、そういえばもう鶴とかお守りって作り始めてるの?」
パンと手を払った和穂が思い出したように声を上げる。
「はいっ。女子更衣室でちまちまやってます。鶴は、応援団やチアの方も手伝ってくださってるので、今年は早く終わりそうなんです」
いっこ上の先輩はほんとにお優しくて、と、ユズちゃんが口元をほころばせた。
「ねえ、それってわたしたちも手伝っていいのかな?」
なにげない言葉にぎょっとした。なにって、『わたしたち』という言葉に。それって、もしかして、村瀬光乃も含まれてる?
「いやあ、最後の夏くらい健太朗にお守り作ろうと思ってるんだけどさ、なかなか上手にできなくて。プロのマネさんたちに手ほどきしてもらえたらなーっていう下心満載なアレなんだけど」
和穂が困ったように頭を掻いた。そういえば、原和穂というやつは昔から、料理や裁縫といった女の子っぽい作業がとても苦手なのだった。
「もちろんですよ!」
「えっ、ほんと?」
「はいっ。きっと春日さんすっごく喜びますね」
きらきらした会話についていけず、黙っていると、いきなり真っ黒なポニーテールがぐるんとまわった。和穂がニマニマしながらこっちを見ていた。
「ねえ、光乃もやるでしょ?」
「冗談」
「藤本にお守り作ってあげたらいいじゃん」
「ハァ?」
どうしてここで涼が出てくるワケ?
あからさまにそういう顔をしてしまっていたらしく、和穂が先まわりして
「光乃以外に作ってくれる女子がいないの、かわいそうと思わない?」
と、なかなかひどいことを言った。和穂にそんなふうに言われていることのほうがよっぽどかわいそうだな。
ふと、ユズちゃんが両手で口元を覆い、目を輝かせていることに気づいた。ほらみろ、いらぬ誤解をされてしまったじゃないか。
どうして、こうも、涼とセットにされてしまうかな。