てきとうに書いてくれりゃそれでいい。
ゴンちゃんはたしかにそう言った。
だから第一から第三まで、和穂とまるまる同じ志望校を書いたのに、それがどうにも気に入らなかったらしい。6月の最終週が始まった月曜の朝、わたしは職員室に呼び出された。
「おまえ、てきとうに書いたな?」
「いや。ゴンちゃんがてきとうに書けって」
「だからって本当に友達のまるまる写すやつがいるか?」
そんな押し問答には結局わたしのほうが負けた。サイテーだ。話が違うじゃないか。
そのうえ、放課後は残って俺の雑用をしろと、ほとんど命令みたいに言われた。
「あー。まっじで終わんねー」
口が悪くなるのは絶対にこのジメジメとした暑さのせい。放課後はどの教室もエアコンが作動しないので、この時期の居残りというのはほんとに地獄だ。
目の前に座る和穂も額に汗をにじませている。3組男子のノートに『五嶋』のハンコをひたすら押しつけながら。
「ゴンゾーってほんとに光乃のこと好きだよね」
「はい? キライの間違いね」
「なに言ってんの。いっぱい目かけてもらってんだよ」
そんな目なら一生いらないんですが。
「光乃いま何組?」
4組男子のノートに手を伸ばしながら、和穂がうんざりしたように聞いた。
「6組女子」
「ハァ? 遅すぎ」
「こっちは手書きでやってんの!」
押しつけられた雑用というのは、全クラス分の生物のノートへのサインだった。いちおうハンコは渡されたけど、もちろんひとつしかないので、ジャンケンの結果わたしが手書きのサインをすることとなった。
右手が腱鞘炎になりそうだ。うしろのクラスの8組から始めて、まだ6組に入ったばかりだというのに。
早く終わんないかな。たぶんあと1時間は終わんないな。ほんと、ヒドイ教師だ。きっとわたしが暇だと思っているんだ。まあ、間違っちゃいないけど。
それにしても、和穂に手伝わせたことがバレたら、またなんか言われそう。