教室を出ていくデッカイ背中にあっかんべーをしてやった。
いつも同じポロシャツの色ちがいを着ているゴンちゃんは、実年齢の33歳よりもずっと若々しく見える。そのくせ貫禄があるようにも見える。貫禄は、声のせいもあるかな。
「なんて顔してんの」
右目を剥き、舌をでろんと出したままでいるところに、あきれたような声が飛んできた。あっかんべーの顔でそちらを向くと、黒い直毛をまるごとガッとポニーテールにした女子生徒が苦笑を浮かべていた。和穂(カズホ)だ。
「まーたゴンゾーに食ってかかってたね」
「チガウよ。ゴンちゃんのほうがわたしに突っかかってきたんだ」
右の人差指を頬から離す。びよんと、下まぶたが元の場所へ戻っていく。
「とか言って光乃(ミツノ)、ゴンゾーのこと大好きなくせにぃ」
ポケットに忍ばせていたチューイングキャンディーを銀紙から剥がしながら、和穂はからかうように言った。一枚こちらに差しだしてくれたので遠慮なく受けとる。
ゴンちゃんのことは好きだ。口ウルセェけど。本気で怒ると、マジでコワイけど。でも、だからこそ、本気で向き合ってくれてるっていうのがわかる。わたしたちのこと誰ひとりとして絶対に見捨てたりしないって、信頼もできる。
入学してから2年以上、黒に染めようともしないわたしの髪色をまだ注意するのは、ゴンちゃんだけだ。
「光乃とゴンゾーって似てるもんね」
「はあ? どこが!」
ニヒヒと笑い、和穂がわたしの茶髪を軽く引っ張った。
「怪獣みたいな顔」
最低! そういう顔をしたら、またげらげら笑われた。そっくりだーって。怪獣にそっくりなのか、ゴンちゃんにそっくりなのかわからないけど、どっちにしろすごく嫌。だから無理やり真顔をつくったら、今度は顔の筋肉が引きつって、もう踏んだり蹴ったり。