「大学か」
ぽつり、たったひとりの部屋に自分のじゃないみたいな声が落ちる。
「どうしよっかね?」
鏡のなかの誰かに聞いてみた。当たり前だけど、答えなんか返ってくるはずがない。
すごく嫌な感じの顔をしているな。わたしってこんなにブスだったかな。今朝、ゴンちゃんに言われた『ブス』を思い出す。その通りだって思った。わたし、すげーブスじゃん。
和穂、涼、春日、市川……、それから、倉田くん。
みんな、きらきらしている。この先にある未来を信じて疑っていないんだとわかる。輝きは輝きのまま、くすむことはないのだと。夢が途中で終わることなど決してないのだと。
みんな、そう思ってるんだ。
鏡に映った誰かが泣いていた。たしかに、わたしだった。ほんとのわたしは泣いていないのに、なぜか泣いているように見えてしょうがなかった。
久しぶりにおにいの話をしたからかもしれない。いろんなこと、いっきに思い出したからかもしれない。それともマカロンがあんまりおいしかったからかもしれない。
どうしてか、なんでか、倉田くんに会いたいと思ってしまう。
屈託のないたれ目に会いたい。ふにゃっとほころぶ照れ笑いに会いたい。元気な挨拶を聞きたい。まっすぐな言葉をぶつけられたい。
あの、輝きに触れたい。
そうすれば、未来はあるって。望んだ未来はちゃんと待ってくれているって、わたしの歩いていく先にたしかにあるんだって、信じられる気がするから。
もういちど夢を見られるような気がするから。
夢なんかもう二度と見たくないのに、そんなふうに思ってしまう。
わたしはまだ、なにかを諦めきれていないのかもしれない。
本当は、諦めたくないのかもしれない。