胸のうんと奥のほうがしくしく痛んでいることには気づかないふりをした。
わたしがなにを思ったって、なにを悲しんだって、おにいの肘は治らない。治らなかった。
「ねえ、おにいって就職決まったんだっけ?」
大学4年になるおにいは、いま北陸のほうの国立大へ通っている。ぜんぜん連絡とらないし、年に2度帰ってくればいいほうなので、なにをしているのかはよく知らない。たしか工学系の学部にいたと思う。
「うん、いくつか内定はもらってるって言ってたけど、本命の会社はまだ最終面接が終わってないみたいよ?」
「ふうん……」
そっか、ふつうに就職するんだな。そうだよね。それ以外に、ないか。
甲子園に行って、プロに行って、メジャーに行くんだ! と得意げに話してくれた幼いおにいを、そしてそうなると信じて疑っていなかった幼いわたしを、ぎゅっと抱きしめてあげたいような気持ちになった。
夢は、叶わない。
どれだけ信じていたって。
どれだけ願っていたって。
それだけじゃ、叶わない。
――叶わなかった。
「隆規のことより、あんた、自分はどうなの?」
ギクッという音が実際に脳ミソに響いてくるようだ。
「あー」
「アーじゃないよ。夏休み前の三者面談、五嶋(ゴシマ)先生になに言われるか気が気じゃないんだから」
ほんとだよ。考えるだけで憂鬱だ。
ゴンちゃんってけっこう容赦ない。たぶん、お母さんが隣にいたって関係ない。
こわいもの知らずだもんな。生徒にいっさい気を遣わない教師、いまどきめずらしいんじゃないだろうか。そういうところが好きだけど、たまに、すごい嫌い。