それでも、べつに無理に隠すようなことでもないので、わたしは梅こぶ茶をひとくち飲みこむと口を開いた。
「きのうサ、和穂といっしょに紅白戦見に行ったんだよね。ウチの野球部の」
ぎょっと開いていたお母さんの目が、さらにぎょっと開く。
「野球を見に行ったの?」
「うん。和穂の彼氏が今年キャプテンで。なんか、流れでね」
「そう……。カズちゃんの彼氏、キャッチャーだっけ?」
少しだけ春日の話をした。
キャッチャーで、4番で、キャプテンだってこと。名実ともにチームの中心にいるのは間違いなく春日だってこと。それから、普段は和穂のことをすごく大切にしてくれているいいやつだってことも。
カズちゃんは男を見る目があるね、とお母さんは笑った。それから、光乃はいつまでたっても浮いた話がないねと、よけいなことも言われた。ほっとけ。
「そんでさ、倉田くんっていうショートの選手が2年生にいるんだけど」
にぱっとした笑顔と、きらきら輝くやんちゃな瞳が、すぐに頭に浮かぶ。なんか、ヘンな子だったな。いい意味で。倉田くんって、いままでに会ったことのないような男の子だ。
マカロンおいしかったよって、ありがとうって、次に会ったらぜったい言わないと。なにかお返しもしないとな。倉田くんはなにが好きなんだろう。
いろいろしゃべったあとで、ぼけっとしていたらファウルボールが降ってきたことを最後に話すと、お母さんはあきれたように笑った。
「バカだねー。そんなアザ、隆規(タカノリ)だってつくってきたことなかったよ」
「えー、そうだっけ? 一回すごいアザつくって帰ってきたことあるよ。デッドボール当たってさぁ、腰だよ、腰。シップ貼って寝てたもん」
ふつうにおにいの話をしていることが信じられなかった。おにいが野球をしていた時代の話なんか、もうすることはないと思っていた。
うれしい。
でも、痛い。
この話が思い出以外のなにかに変わることはもう二度とないということを、わかっているから。