今年も夏が、やってくる。



「村瀬ェ、いいかげんに出せよ、おまえ」


帰ろうとしていたところを担任のゴンちゃんに出席簿でぽこんと小突かれた。このしゃがれ声から受ける授業はほんとに聞きとりづらくて嫌い。荒れていた高校時代にデカイ喧嘩をやらかして潰したらしい。


「おまえひとりのおかげで俺が進路指導部長から叱られるんだぜ」


ゴンちゃんが言っているのは、6月の頭に配られた進路希望調査用紙のことだった。どうやら、まだ提出していないのがとうとう学年でわたしひとりとなったみたいだ。


「ちゃらちゃらした髪色しやがって」

「いや、まだぎりぎりセーフっしょ?」

「ぎりぎりアウトだ、バカタレ」


もういちど小突かれる。今度は人差し指の第二関節で。ポコンでなく、コツンという音が脳ミソに響いた。

もともと闇夜のように真っ黒なこの髪を、はじめに茶色く染めたのは2年半前、この学校へ入学する前日だった。それから半年おきに明るくなっていくアタマ、生徒指導にはとっくの昔に諦められている。


「いいから早く出せよ? てきとうに職種でも大学名でも書いてくれりゃあ、それでいいからよ。来週中に出さなかったら生物の成績は無いもんだと思っとけ」

「えー!」

「エーじゃねえ」


ゴンちゃんは、髪色を戻せとは言わないけど、こういうことに関してはほんとにおっかない教師だ。

まずいな。これは、来週のうちにばっちり提出しないと、マジで『1』つけられるな。ゴンちゃんってやると言ったらやる男なのだ。

スクバのなかで眠っている茶色のわら半紙を思い浮かべて、深いため息をついた。あんなのに書く未来なんかは、ぜんぜん見えてこないや。