ひとつしか違わないはずなのに、なんだかものすごく年の離れた男の子だったように思えて仕方がない。あんなに幼い、かわいい高校2年生ってほかに知らない。

それなのにプレーは圧巻、野球選手としては上級生たちを凌駕する勢いで。走攻守、どれをとっても2年生だとは思えなかった。あんなふうな男の子が見せるプレーじゃなかったよ。


不思議な子だ。

くらた・さくや。


きっとかなりの期待をかけられているに違いない。

無理な練習をしていないかと心配になる。自分を過信してはいないかと、不安にもなる。


お門違いも甚だしいな。恥ずかしい。

こういう気持ちになるのが嫌だった。恐ろしくもあった。だからなるべく球場って避けていたんだ。

あんなに大好きだったのに、わたしはもう二度と純粋に野球を楽しめないのかもしれない。そう思うと、とても悲しい。

特に高校野球は、特別だからこそとてもこわいってこと、知っているから。



「よう、光乃、原ちゃん、おはようさん」


月9について和穂としゃべっていた真ん中に、いつものふわふわした声が落っこちてきた。涼だ。きょうもネクタイを締めずに朝練から帰ってきやがった。


「オハヨー藤本」

「おはよう」


目だけで上を向いてぽこぽこと挨拶を返す。

いつもはすぐに自分の席へ向かう涼が、なぜかきょうはずっとそこに突っ立っていた。気になってもういちど顔を上げると、同時に口を開いた涼と目が合った。


「光乃、ちょっと来いよ」

「え、なに」

「倉田が来てる」


えっ?


「なんかメンドイから連れてきた」


わたしの返事を待たずにすたすたとドアへ引き返していくだらしない背中をぽかんと見送る。和穂に「おーい」と声をかけられてやっと現実に戻ってくる。


「行ったげなよ」

「……ねえ、なんかわたしスゴイ気ぃ遣われてる?」

「まあ、半分はさっくんの性分でしょ」


じゃああとの半分はなんなんだ? と聞きかけて、踏みとどまる。これ以上待たせるのは本当に申し訳ないと思い、あわてて涼の背中を追いかけた。