「はいっ、ではここでヒーローインタビューにまいりましょう」
いきなり空になった紙コップを口元へ向けてやると、伏せられていた瞳が驚いて開いた。
「9回ウラ、2点リードされていた場面でのヒッティングは見事でしたね。打ったときはどんな気持ちでしたか?」
「え……あの、ツーアウトだったんで。なにがなんでも打つしかないと思って。打ったときのことは、よくわかんないんですけど。ベンチとスタンドが湧いたんでとにかく走ろうと思いました」
「やはり気持ちよかったですか?」
紙コップのマイクを向けられた朔也くんは戸惑ったようにわたしを見つめ、ちょっとだけ考えると、今度は顔じゅういっぱいににぱっと笑った。
「はいっ。自分史上最高のヒットでした!」
ふたりだけのヒーローインタビューは続いた。
わたしが試合についてアレコレ聞きたかったのもあるけれど、本当に素晴らしいゲームを見せてくれたのだということをどうにかして彼に伝えたかった。
高校野球において勝敗はなによりも大切だけど、それがすべてというわけじゃない。悔しさの先でいっぱい大切なものをもらったよ。長いこと野球ファンでいるけど、わたしにとってきょうのゲームは『自分史上最高』だった。
「試合前、『勝ったら聞いてほしいことがある』と言っていましたが、あれはなんだったのでしょう?」
それまで快活に受け答えをしていたヒーローはその質問でピタッとフリーズした。
ありゃ、ダメだった。このままいけるかと思ったんだけど、アスリートの反射神経はなかなか手強い。
「……それは。勝ってないので、どうしても言えないです」
「いえいえ、大丈夫です。ここだけの話にしときます」
ジョークのつもりで返したらものすごく不服っぽい顔をされた。眉根をぎゅっと寄せ、くちびるはつんととがっている。あんまりかわいくて笑ってしまう。そしたらもっと不服な顔をされる。違うよ、からかってるわけじゃないんだ。
「ゴメンゴメン。うそ、わたしも言わなかったもんね」
なおもまじめな色で向けられている目は怒っているようにも見えて、やっちまったかも、と反省した。