「理学療法士になりたいなって、ぼんやり思ってるんだ」
生まれたての夢、まだおぼろげな目標。だけど誰より先に、いちばんに、朔也くんに伝えたかった。
「理学療法士……ですか?」
「うん。リハビリのお手伝いとかする人。できればスポーツ専門でやりたいと思ってて」
4年前、肘をぶっ壊して世界が終わったおにいの傍に、リハビリのお兄さんがいた。
いま思い返すと心のケアもしてくれていたんだと思う。通院も終わりに近づくと、おにいは以前のように笑っていたんだ。
ひとりの青年の世界を再生してくれた人がいる。
そんな大それたことじゃないと言われるかもしれないけど、いまのわたしにとってそれはささやかな奇跡みたいに思えて仕方がなかった。
今度、おにいに当時のことを聞いてみよう。帰ってすぐに電話してみるのもいいかな。
「……すごい、光乃さんらしいです。メチャクチャしっくりきます。ぜったい向いてます!」
一言ずつ声が大きくなっていくのがおかしかった。ちょっと恥ずかしくて、くすぐったかった。うれしかった。
実はまだ、よくわからない世界。なりかたもわからない。もしかしたら、文系のわたしが目指すにはむずかしい道なのかもしれない。
でも諦めたくない。わたしはわたしの戦場で、やれることをぜんぶやるんだ。
「ケガしたらお世話になっていいですか?」
「嫌ですー。ケガしないよう、しっかり心がけるように」
冗談みたいに言ったけど、本気で思う。やっぱり大切な人にはケガなんてしてほしくないな。
「あの。それが、『言いたいこと』だったんですか?」
いきなり口調を変えた朔也くんはうかがうように訊ねた。チガウよと笑って答える。
「勝ったらねって言ったじゃん」
はっとして、しゅんとうつむいた視線はそのまま上がってこなかった。
「勝てなかったです。約束したのに……」
子犬のような顔はやっぱり17歳には見えない。
そういえば最初に見たのはこの顔だった。ファウルボールが降ってきてできたアザは、いつの間にか跡形もなく消えてしまっていたな。