ほとんどモノの入っていないスクバからペンケースやポーチを取り出した。進路希望調査用紙は、一瞬迷って、入れたままにした。
机の横に鞄を引っかけたところでぽこんと肩を叩かれる。
「オハヨ、光乃」
「あ、おはよう、和穂」
「ねえ、いまこーんな顔のゴンゾーとすれ違ったんだけど」
顔の中心にすべてのパーツをギュッと寄せた和穂が、見事にさっきのゴンちゃんと同じ顔になったので、笑ってしまった。すっとした美人の和穂がたまに見せる顔芸にはものすごい破壊力がある。
「また喧嘩したの?」
わたしのななめ後ろの席へリュックを置き、和穂が一度ぐるんとポニーテールを揺らした。
「チガウよ。きのう打球当たったの、心配して見に来てくれたの。ゴンちゃんってかわいいとこあるよね」
「あー、それを光乃がからかったってわけね」
べつに、からかってなんかない。ちょっと笑ったらゴンちゃんが勝手に怒っただけだ。
「肩は大丈夫なの?」
「うん、やっぱりどうしても痛みはあるけど、ぜんぜん大丈夫」
右肩にさわってみる。軽く押しただけでずーんとした鈍痛が広がる。きのうより深い痛みになっている気がするけど、打撲なのでしょうがない。
今朝、着替えるときに何気なく見てみたらエグイほど黒くなっていた。カッターシャツの下に黒いTシャツを着てきたのはそのせいだ。
「健太朗が言ってたけど、さっくんスゴイ気にしてたって」
「えー。ほんとに見てなかったわたしが悪いのに! 逆に申し訳ないな」
本当に大丈夫だってこと、涼あたりに伝言してもらおうかな。そんなことしたら逆に気にしちゃうかな。
あの子犬のような顔を思い出してみぞおちのあたりがぎゅぎゅっとせまくなる。