決勝戦の相手はここ数年間、甲子園に出ずっぱりの私立高だ。きっとここが残ってくるだろうとは思っていた。球場にいるほとんどの人がそう予想していただろう。

敵はデカイ。簡単に勝てるとは思わない。名前だけでこんなにコワイと思わされる強豪校には、たしかにそれ相応の力がある。


エール交換にも気合が入った。もみじの声なんか裏返っていた。わたしも精いっぱい叫んだ。きょうで喉をツブしちゃってもいい。完全燃焼という言葉が思い浮かんだ。でも燃焼して終わったらダメだ。

勝つんだ。勝って、甲子園に行くんだ。


「向こうのサードの子、2年生なんだけど、タカくんと同じシニア出身なんだって」


足元にあるポンポンをわさわさと揺らしながら和穂がうれしそうに言う。和穂のオタクっぷりにもそろそろ慣れてきた。


「ああいう強豪に地元の子がいるとうれしいよね。敵だけどちょっと親近感湧いちゃう」


たしかに、相手チームの選手はほとんどが県外からやってくる留学生だっけね。強豪ならではの文化だと思う。

電光掲示板を確認すると三塁手は戸田という子だった。二番バッター。


「戸田ってコ、朔也くんの友達かもよ」

「えっ、そうなの?」

「朔也くんもおにいと同じシニアにいたんだって。戸田くんもそうなら、ふたりは中学時代チームメイトだったんじゃないかな。しかも同期でしょ」

「えー! そんなのぜったい友達じゃん!」


先頭打者がピッチャーゴロでアウトになると、噂の戸田くんが打席までやってきた。

うわっ、けっこう小柄な子だ。二番打ってるし、もしかしたら朔也くんと同じ機動力のある選手なのかもしれない。


「かつてのチームメイトと対決っていいなあ」


ウットリしながら和穂が長い脚をバタつかせる。


「地区大会じゃめずらしいことでもないんじゃない?」

「だって決勝だよ! やっぱり『あしたはがんばろうな』とかやり取りしたのかな?」

「なにそれ? 和穂ってほんとに変なオタクだよね」


苦笑したと同時に甲高い金属音が響く。ライト前ヒット。ランナーは余裕をもって一塁まで軽やかに駆け抜けた。