「じゃあ、わたしも」

「なんですか?」

「勝てたら朔也くんに言いたいことがあるんだけど、いい?」

「えっ、なんですか、勝たないと教えてくれないんですか」

「ハードルつくっときたいんですー」

「……そういうのナシです」

「自分だっておんなじじゃん!」


ふと、ついさっきも似たようなやり取りがあったことを思い出した。


「そういえば、きのう涼となに話したの?」


浮かんだ質問をそのまま投げかけると、優しい印象のあるたれ目ががばっと見開いた。涼と話したのをわたしが知っていることにかなり驚いているみたいだ。

いろいろ考えているのか、さんざん目を泳がせたあとで、朔也くんはばつが悪そうに言った。


「……それが、聞いてほしいことなので。いまは言えないです」


またおあずけだなんて! これはぜったいに勝ってもらわないといけないな。

わたしがあんまり不満げな顔をしていたのか、あわてて「勝ちます」と言われた。でもそれは言い訳やその場しのぎでなく、ちゃんとした重みをもって、耳に、心に届いてくるから不思議だった。


「そういえば、黒いの、いいですね」


唐突に言われてなんのことかと思う。視線をたどり、髪のことだとわかる。


「ありがと。もうヤンキーはやめようと思ってね」


冗談を受け流すように朔也くんは笑った。


「ほんとの理由はなんですか?」

「理由なんてないよ」


ただ、なにかを変えたかっただけ。

わたしのなかでなにかが変わっただけ。


「しいて言うなら、おにいの彼女がすごくきれいな黒髪してたから。真似したくなっちゃったのかもね」


きれいになりたい。見た目だけじゃない。心の美しい女になりたい。

ささくれがひとつもないのとは違う。痛い場所はあっていいんだ。そのぶんだけ強くなれたらいいんだ。

そしてたまに、大切な人にだけそっと傷を見せるような、かわいい女になれたらもっといいと思う。