手のひらに小さな圧力を感じた。一方的に握っていただけの手がつながる。
「……もう、そんなこと言ってもらえないかと思いました」
「わたしも、こんなこと言うなんて思ってなかったよ」
朔也くんは肩の力が抜けたみたいに眉を下げて笑った。わたしも同じ顔になってしまう。いま、こんなふうに笑いあえていることが、なんだかかけがえのないことのように思えた。
「がんばります」
「うん」
「いっぱい走って、いっぱい打って、いっぱい防ぎます」
「なかなか言うね」
「光乃さんが『がんばって』って言ってくれたので」
よかった。魔法はまだ有効だったみたいだ。
「それに、勝ったら甲子園です」
「そうだね。すごいよ。嘘みたい……」
「もし」
語尾にかぶるようにして朔也くんは性急に声を出した。ほぐれかけていた表情がまたコチンとかたまっている。なんだ? 思わずコッチも背筋が伸びる。
ひと息おいたあとで、結ばれていたくちびるがためらいがちに動き始めた。
「もしきょう勝てたら、光乃さんに聞いてほしいことがあります」
真剣な声。まじめな顔。冷えていた指先がいつの間にかじんわりと熱を持っている。なぜか、どきどきする。つながっている両手がいまさら恥ずかしくなってきちゃったよ。
「ちなみにそれは、勝たなきゃ言えないことなの?」
「そういうわけじゃないんですけど。なんとなく、ハードルつくっときたいんです」
「なにそれ」
「いいんです」
今度はすねた口調になる。ちょっととんがったくちびるがかわいいな。
コロコロ変わる表情、いろんな朔也くんを、ずっと近くで見ていたい。そう、わたしも、聞いてほしいことがあるよ。