「わたしは倉田朔也くんが好き」
嘘のない気持ちというのは意外とすんなり言えちゃうもので、自分でもちょっと驚いた。
「……はい」
柚ちゃんは聖女のようにやわらかく微笑み、長いまばたきをしながらうなずいた。
「光乃先輩はいつも優しくて、かっこよくて……ぜんぜん、敵わないです」
聖女の微笑みがどこか切なくくしゅっとゆがむ。
「すごく、すごく、憧れます」
そんなふうに心をこめて言われたらコッチも笑顔がゆがみかけてしまう。嫌だからそうなるわけじゃないんだ。うれしい。けど、ちょっとほろ苦い。わたしなんかにそんなもったいない言葉。
ここで卑屈になってうっかり否定しちゃうのは、優しくもないし、かっこよくもないんだろうな。
「ありがとう。……これ、あげる」
なにか気持ちを返したくて、咄嗟に思いついたのがきのう打ったホームランの景品だった。ボールとバットとグローブのミニチュア・レプリカがぶら下がっている古くさいキーホルダー。
本当は朔也くんにあげようと思っていたものだ。以前もらったウサギのお礼に。それと、ひどいこと言ってしまったお詫びに。
でも、なんとなく、これはどうしても柚ちゃんに持っていてほしいと思った。
安っぽいキーホルダーを、ふっくらとした小さな手がおそるおそる受け取る。瞳ががばりとわたしを見上げ、そのなかできらきらと太陽が踊る。
「ありがとうございますっ。いいんですか?」
「うん、それね、実はバッセンの景品なんだよ。そう見えてホームラン賞だよ。ケチくさいでしょ」
日に焼けて色が抜けてしまっているやわらかそうなショートヘアーがぶんぶん横に動くのを、尊い気持ちで見ていた。
がんばってほしい。選手たちのこと、最後まで支えてあげてほしい。信じていっしょに走ってあげてほしい。柚ちゃんは真心こめてそれができる子だと思うから。
「ねえ。やっぱり柚ちゃんってマネ向いてると思うよ」
思ったことをつい口にすると、ちょっとびっくりした顔。そして、照れた顔。最後にとびっきりの笑顔。
「あのっ。つぎ、好きな人ができたときは……いちばんに光乃先輩に報告させてほしいです」
まさかそんな答えが返ってくるとは思っていなかったので面食らった。
今度こそ笑顔がゆがんでしまう。切なくて、うれしくて、かわいく笑ってくれる後輩があんまりかわいくて、喉のいちばん奥がぎゅうっと苦しくなったんだ。