⚾ ゜*。+


「で」


いきなり、もともとドスのきいた声にもっとドスをきかせたのが、すぐうしろから降ってきた。


「進路希望調査は書いてきたんだろうな、村瀬?」

「ウワッ」

「いろいろと面倒見てやってる担任の先生に『ウワッ』となぁ」

「いまのは違うじゃん! すぐ背後にいるゴンちゃんが悪いんじゃん!」


来るの早いよ。まだ朝のHRより20分も前だ。

それに、進路希望は、来週まで待つと言った。


「その顔はまだだな」

「……来週までいいって」

「もうとっくに提出期限は過ぎてるんだが?」


それを言われたらなんの反論もできない。言い返すかわりにくちびるをつき出したわたしに、ゴンちゃんはフンと笑って「ブス」と言った。

信じられない! ふつう、かわいい生徒にそんな暴言吐く?


「おまえ、きのう、なんか打球が当たったらしいな」


言い返そうといっぱいに吸いこんでいた息が肺から抜けていく。思わぬことを思わぬタイミングで言われたからだった。


「どうだ?」

「……どう、って」

「やっぱり痛むのか」


まさか、その話を聞いてこうして早めに来てくれたの? わたしの様子を見るために?

ゴンちゃんってすごくわかりづらい。でも、わかりやすい。

婚約中だと噂の彼女は、きっとゴンちゃんのこういうところに惚れたんだと思うな。彼女の話は絶対にしてくれないけど。本人はそんなものいないと言い張っているけど。

くくくと笑ってしまう。ゴンちゃんが心底嫌そうに眉をしかめた。


「黒いアザはできたし、押すとちょっと痛いけど、大丈夫」

「そうか」

「すぐ治ると思う」

「なら、いい」


それだけ答えるとゴンちゃんは再び教室から出ていった。両足からドスドスという音が聞こえてきそうだ。怪獣みたい。

きのうの和穂の言葉をはたと思い出す。

うげ。わたしもあんなふう?