「……正直なこと言うと、振られたらもう部活続けられないかもって心配してたんですけど」


ちょっと恥ずかしそうに、追伸みたいにつけたして。


「でも、実際はぜんぜんそんなことなくて。倉田くんを追いかけて野球部に入部したのが、いつの間にかわたし、野球じたいを、選手のみなさんやマネの仲間を、すっごく大好きになってたんだなあって実感しました。大げさかもしれないですけど、それってものすごい奇跡だと思いました」


いままで見たなかでいちばんの笑顔。いちばんかわいくて、いちばんまばゆい。


「倉田くんを好きになってから、信じられないほど世界が広がったんです。わたし、倉田くんを好きになれて、ほんとによかったです」


にぱっと笑った柚ちゃんの表情は、朔也くんがいつも見せるそれとよく似ていた。

ふたりのこれまでの歴史を思うと少し切ない。切ないけれど、とても愛しい。懸命にひとりの男の子を想った宝物みたいな気持ちが愛しい。


出会いは、いくつもの偶然が重なった、かけがえのない奇跡だ。
そのなかでふいに生まれる想いは、もっととんでもない奇跡だ。

倉田朔也くんとの出会いは、彼に恋した気持ちは、この女の子の胸の真ん中でいつまでもいつまでも輝き続けるのだろうと思った。


「柚ちゃんに……ひとつ、謝らなきゃいけないことがある」


愛くるしく濡れた瞳が揺れながらわたしを見上げた。


「こないだの質問ね。朔也くんのこと好きじゃないかってやつ……あれ、答え、嘘だった」


厳密に言うと嘘ではなかった。あのとき、わたしは自分の気持ちに鈍感で、鈍感でいようと必死で、嘘をつこうと思ったわけではなかったよ。

でも、泣いちゃうくらい気持ちをむき出しにしてくれた柚ちゃんに対して、決して誠実ではなかったと思う。先輩としても、同じ女子としても、心の底からダサかったと思う。