勝手な不安。友達でいたいというのは、わたしのワガママだ。

涼は、わたしに恋をしていたんだよね。真剣な気持ちをくれて、その真剣を、わたしは受け入れることができなくて……。

まったくこれまで通りというわけにはいかないんだと思う。もしこれが逆の立場だったらと思うとゾッとする。わたしだったらたぶん、もう友達ではいられないもん。


「あー、よかった! ちゃんと振ってくれて」


いきなり、霧がかった脳ミソを晴らすような、涼のスカッとした声。


「ハンパな気持ちでオッケーされたらどうしようかと思ってた。ぜったい上手くいかねーだろーなーって」

「なにそれ?」


つまり、振られたかったってこと?

どういうことか訊ねようとして、顔を見上げて、やっぱりやめた。親愛に満ちた微笑みがすでにわたしを見下ろしていた。


「倉田とつきあうの?」


わたしの好きな男の子、涼はいつから知っていたんだろう。


「つきあわないよ」

「え? なんで?」

「なんでって、そういうのは、わたしの気持ちのみで決められることではないじゃん」


ンーとくちびるをとがらせ、しばらく考えるそぶりをすると、涼は言葉を選ぶようにポツポツ話し始めた。


「きのう、夜だぜ、とつぜん倉田が俺ンチ来たわけ。あしたは大事な試合だからその前に話しておきたいって。大まじめな顔で。笑えるくらい」


それは、ひとつ下の後輩がかわいくて仕方ないという口調で、ほっとした。おとといの試合を見て心配に思っていたんだ。ウチの鉄壁の二遊間が本当にダメになってしまったらどうしようって。


「なに話したの?」

「それはあいつから聞けよ」

「なんでよ。いいじゃん、教えてよ」

「なんでもねーよ」

「うわ、ウザ」

「決勝控えてる朝に人のこと振るやつに言われたくないんデスケド」


それは、言い返せないから困るじゃん。


「それにしてもほんと似合わねーな、黒いの」


トドメを刺すかのように涼はいじわるく笑った。デカイカタイ手で頭をぐりぐりされる。

茶色いアタマをいいと言ってくれていたのは、そういえばずっと涼だけだったな。ドキドキしながら登校した入学式の日、なにその色カッケーって言われて、ほんとはすごくうれしかった。

あれからもう2年半。なかなか仲良くやってきてると思う。腐れ縁だけど、大切にしたい縁だ。