自然と歩みが止まってしまう。涼は見たこともないような表情を浮かべてわたしを見下ろしていた。緊張しているとも、切ないとも違う、だけどぴりりと引き締まった顔。
いつものふにゃふにゃで聞いてほしかったよ。なんて伝えたらいいかわからなくなる。
「光乃がそんな顔するなよ」
ふっと、小さく息を吐いた涼が薄く笑った。
いまわたし、どんな顔をしているんだろう。きゅっとくちびるを結んだ。涼は、ゆっくりうなずいた。
「うん。言って。ちゃんと光乃の言葉で聞きたい」
伝えたいと思っていること、わたしの持っている言葉のなかで、いったいどれだけ伝えられるかな。
涼って実はすごくいいやつだし。やっぱりほかの男子とは違うと思うし。そんなことをグダグダしゃべった。涼は黙って聞いていた。
肝心なことを言うのってものすごく勇気がいる。その相手がすごく大切な友達だとなおさら。
「涼といっしょにいると楽だよ。そう、これ以上にないってくらいの友達で……」
早口でしゃべりながらそろそろ自分を嫌いになってしまいそうだった。
本当に言いたいのは、本当に伝えなくちゃいけないのは、こんなことじゃないはずだ。涼の気持ちに応えることができないのは、違う。もっとちゃんとした明確な理由があって。
「……ほかに、好きな人がいる」
ずっと押し黙っていた涼は、それを聞いてやっと口を開いたのだった。
「わかった」
たったそれだけつぶやくと、再び歩きだした。あわてて隣にならぶ。
「相手……誰なのか聞かれるかと思った」
墓穴を掘るようなことを言ってしまった。それでも、いまは沈黙がキツかった。
「そんなもん言わなくてもわかるってーの。それとも聞いてほしいんなら、ぜんぜん聞くけど」
あっけらかんと言い放ち、ニヤリと口元をゆがめてわたしを見下ろす様は、いつもと同じで安心する。でもやっぱりこれまでとはどこか違っていて、どうにも不安になる。