ああ、いまのおにいは、あのころからずっと続いているおにいだ。
わたしの大好きなおにいだ。

だから、おにいがきっとがんばって手に入れた毎日を、ダイヤモンドを、わたしも大切にしよう。


「ねえ、あした決勝だけど、見に来る?」

「あー、見に行きたいけど、行けねえや。バイトだ」


苦い顔で口をとがらせたおにい、ガソリンスタンドでせっせと働いているらしい。


「倉田くんにヨロシク言っといて。ふつつかな妹ですが頼みます、とも」

「なにそれ?」

「好きなんだろ?」

「ハァ!?」


そんなことは一言も言ってない!

けど、弁明の余地もないほどカッカと熱くなってしまった頬をどうすることもできなくて、メチャメチャにイジられて、むかついて、恥ずかしくて、負の連鎖で、ダメだった。


「正月に帰るよ。実憂連れて。父さんと母さんに紹介しときたいんだ」


さんざん笑いたおしたおにいが仕切り直すように言った。


「結婚するの?」

「まだまだ先だよ」


でも、しないとは言わないんだな。きっといつか実憂さんはお姉さんになるのだと思った。そんな未来が早くきてほしくて、妙にそわそわした。ドキドキした。


そのころ、わたしはなにをしているだろう?

ふわっと想像してみて、はじめてはっとする。そしていまさらのようにあせる。遅いよ。ゴンちゃんやお母さんやお父さんにさんざん言われていたじゃないか。


いまからでも、大丈夫だろうか。ちゃんと見つけられるだろうか。

未来の自分に怒られないような、いつか、これでよかったと誇れるような、大切な物語を。


そう、これから、探すんだ。見つけるんだ。選ぶんだ。自分で。
これだと思うものが、きっとわたしにもあるはずだ。


白紙だった進路希望調査用紙に鮮やかな色が載ってゆく。まだ何色かわからない。でも、たしかに、無色じゃない。

目の前に伸びるのは、わたしが色づかせてゆくデコボコ道だ。