体も小さければ頭も小さい。きれいに真ん中から渦を巻いているボウズ頭をぽかんと眺めていた。わざわざ脱帽して頭を下げるところ、なんだかすごく野球部っぽいなあと、どうでもいいことを思った。


「あ、いまの……」

「おれの打球です」


見た目よりずっと落ち着いた声で話すんだな。ゆるゆると頭を上げた倉田くんは、やんちゃそうなひとえの目をグッと下げ、気遣わしげにわたしを見つめた。


「骨とか、大丈夫ですか。折れたり、ヒビとか」

「あっ、ううん、そういう痛みじゃないよ、大丈夫」


骨折はしたことがないから、どういう痛みかさっぱり見当もつかないけど。でも、大丈夫だ、うん、そういう感じじゃない。ちゃんと動くし。問題ない。

ぐるぐると肩をまわして見せる。倉田くんはぎょっとして、混乱したように和穂のほうへ視線を移した。しまった、おかしなことをしてしまった。


「試合、中断させちゃってごめんね。実は打球ちゃんと見てなくて。だからわたしが悪いんだし、気に病まないで」


先輩らしい態度と言葉づかいを心がけ、なるだけ穏やかにしゃべった。慣れなくてぞわぞわする。


「……はい」


倉田くんがしゅんとしながらうなずく。その様子があまりに幼く、子犬っぽいので面食らった。野球してるときとぜんぜん違う。


「ありがとうございます。ほんとに、すみませんでした。村瀬さんですよね。原さんと仲いいんで知ってます」


存在を知られていたことに驚きすぎてなにも言葉が出なかったわたしに代わり、隣で原和穂がハイと声を上げた。


「またうかがいます!」


どこに、なにしに、『うかがう』のだろう?

それを問う前に倉田くんは行ってしまった。彼の打席はまだ終わっていない。再びバッターボックスに入る前、倉田くんはもういちどあのルーティンをした。


ぼけっとしていると、顧問の本田先生がこっちへやって来た。ついでに、なぜか涼も。心配してくれているのかと思えばダッセェと笑うんだから世話ないな。スタメン落ちしてしまえと、今度は本人に向かって言ってやった。


野球部顧問のくせに保健医の本田先生にアレコレ聞かれているあいだに、試合は終わってしまっていた。

スコアボードは6-0のまま。
最後のランナーはけっきょく帰せないでアウトになってしまったのか。

もしかして動揺させちゃったかな。それだったら、とても悪いことをしてしまった。