「光乃、ごめんね」
どうして、お母さんが謝るんだろう?
「光乃だってずっと悲しかったのに、お兄ちゃんと同じくらい悲しかったのに、お父さんとお母さんはお兄ちゃんばっかりだったね。光乃がいちばんお兄ちゃんを応援してたことわかってたはずなのに、ぜんぜん気にしてあげられなかった」
違うよ。そう言うかわりに、肩に顔を押しつけながらふるふると首を横に振る。
違うんだ。傷つくのがこわくて、平気なふりをしていたのはわたしだった。逃げていたのは、ずっと、わたしだったんだ。
もっと早くお父さんとお母さんと話をしなくちゃいけなかった。本当は、おにいやわたしのこと、たくさんのことを、いっしょに悩んでほしかった。
「隆規は光乃のことをすごく気にかけてるよ」
とつぜん、お父さんが低い声でぽつんと言った。
「申し訳なかったっていまだに言うんだ。光乃はどうしてるって、父さんや母さんに聞くんだよ。合わせる顔がないと思ってるんだろうな」
おにいとは、あまり会っていなくて。まず帰省してくることがほとんどない。年に2回、お盆と年末年始の数日を帰ってくるけど、地元の友達と遊びに出ていくばかりで、ウチにいることは本当に少ない。
「隆規は半分、光乃のために野球やってたからな」
避けられているんだと思っていた。兄を責めた妹のことを許せないでいるのだと。
おにいが野球を手放してから、4年前の夏からいままでのあいだに、わたしたち兄妹はいくつの言葉を交わしたんだろう。
4年は長い。わたしが思うより、きっと、はるかに。
簡単なことじゃない。少しのことですべてが片づいてしまうなんて決して思わない。
でも、たぐりよせていこう。ひとつずつ。どれだけ時間がかかってもいいから。きょうみたいに泣いたっていいから。
そうすることに、意味はぜったいにある。
「おにいに会いに行く」
涙を拭いてきっぱり言った。お父さんが深くうなずいた。お母さんが眉を下げて微笑んだ。
帰ってきたら、お父さんとお母さんとも話そう。ぜったい話そう。
いままでのこと。これからのこと。ぜんぶ。できるだけ素直に。