フェンス越しにグラウンドを見ながらはしゃぐ和穂の横顔を眺めていた。いつも上品にゆらゆら揺れているポニーテールが、いまはぴょんぴょん楽しげに跳ねている。

中学のころはいつもこうして和穂といっしょに試合を見ていたっけ。ウチのおにいの試合、中学の野球部の試合、シーズン中はプロの試合まで。けっこう、いろいろ見たな。

試合前にどちらが勝つか予想を立てるのが楽しかった。
試合中、抱きあって喜んだりいっしょに落胆したりするのが楽しかった。
試合後にファインプレーや珍プレーを勝手に講評するのが楽しかった。

こんなふうに和穂とならんで野球を見るのはいつぶりだろう。
ああ、野球観戦ってやっぱり楽しいな。和穂は相変わらず、一生懸命に応援をする子だ――


「――みつのッ」


見つめていた横顔がすごい勢いでこっちを向く。焦ったような表情に、急に現実へ引き戻される。


「え……」


それが降ってきたのは、声を発したのとほぼ同時だった。ゴンという鈍い音。右肩に感じた衝撃。あまりにも強すぎたので目がチカチカしている。


「いっ、……ったぁ!!」


嘘だ。痛みなんてぜんぜん感じなかった。ただ、本当にそうなる前に口に出しておいたほうが、なんとなく痛みも和らぐような気がして。

まあ、もちろん気のせいだったわけですが。


「光乃、大丈夫っ!?」


大丈夫じゃない。メチャクチャ痛い。なんか、鈍痛。重たい感じ。右肩がまるごとなくなってしまったのではないかと錯覚する。

硬球ってこんなに痛いの? デッドボールが当たっても平気そうにしている選手の体っていったいどうなっているんだ。


「すみませんでしたっ」


いきなりドデカイ声がした。顔を上げると、錆びた緑色のアミアミの向こう側で、こぢんまりとした選手が深々と頭を下げていた。

倉田くんだった。