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暗く深い海のような夜だった。

どこかふわふわしていて足元がおぼつかない。なぜか、息苦しい。まるで海底を歩いているみたいな心地だった。自分の住んでいる街じゃないように思えて、途中、ウチに帰れないんじゃないかっておかしな心配までしてしまった。


悩んだ末に家を出たのは21時半をまわったころだった。どうしても、なんとしてもきょう、朔也くんと話をしなければいけないと思ったんだ。

連絡先を知らないということに気づいたのはそのとき。涼に聞こうとして、ああそうか、ダメだと思い、やめた。和穂なら知っているかと思ったけど、なんとなくそれも気が進まなかった。

わたしと朔也くんとを結ぶ接点はあまりにも少ない。そんなことをいまさら実感している。どこかさみしい気持ちになったけれど、その理由はどれだけ探しても見つからないような気がする。


バッティングセンターの明かりはすでに消えていた。携帯の時刻表示を見ると22時前になっていた。仮にきょうも打ちに来ていたとしても帰ってしまったあとだ。時間を気にしたことはほとんどなかったけど、いつも20時あたりに集合して、21時半過ぎに解散しているんだっけね。

たった二日空いただけなのに、このポッカリとした空洞みたいなものはなんだろう。

ずっと、毎日、ここで会っていたんだな。
お父さんとお母さんと喧嘩して家を飛び出した夜、ださい泣き顔を見られてから、もう一週間。でも、たった一週間か。あんまりいろんなことがあったのでなんだか不思議。

そう、いろんなことがあった。いろんなことを話したし、いろんなことを思った。

『ちっこいショートの子』が『涼の後輩・倉田くん』になり、それが『朔也くん』になり。
いつしか彼は、わたしにとってたったひとりの男の子になっていた。

とても大切に思う。あのにぱっとした笑顔を思うと胸が苦しくなる。もう二度と、彼のもとに悲しい出来事が訪れないでほしいと願ってしまう。

誰より楽しそうに、心から幸せそうに野球をしている姿が、好きだな。

ずっとそうであってほしい。
ずっと、わたしの好きな朔也くんでいてほしい。


知らないうちに涙の粒が頬をつたっていた。しゃがみこみ、膝に顔を埋めて、泣いた。いっぱい泣いた。