スタンドからの景色は変わらないのに、これまでの試合とはぜんぜん違っているように見えた。前回は一塁側で今回は三塁側だからかもしれない。

でもきっとそうじゃない。

まだ、答えは出ていなかった。


試合前、涼はふだん通りに守備練についていたし、朔也くんもふつうだった。ただ、いつもいっしょの二遊間コンビが、きょうは別で行動していた。

帽子のツバで隠されている表情までは見えない。涼とも、朔也くんともあれから話していない。どうにも心がざわつく。それをすぐに察知したのは和穂だった。


「藤本となんかあったんでしょ? きのう追っかけてったときにサ、なんか言われた?」


『なんか』の内容はすっかりわかっているふうな口調。でも茶化す感じじゃなく、本当に心配してくれているのがちゃんと伝わってくる。だから涼とのこと、ぜんぶ素直に話した。

和穂はちょっと笑ってからうなずいた。


「あー、そうか、藤本、自覚なかったのか」

ひとり言みたいにこぼして、

「藤本が光乃のこと好きなのはずっと知ってたよ。見るからにダダ漏れじゃん?」

あっけらかんと放つ。


「いやいや。涼、彼女いたことあったし」

「カモフラか、光乃の気ィ引くためなのかなって思ってた」


2年と半分で何人の女の子とつきあってきたんだっけか? 3人は名前も顔も知っているけど、ぜんぜん知らない他校の子ともウンヌン言っていたから、きっとそれではきかないはずだ。

涼はちゃらんぽらんだけどダメなやつじゃない。これまでにつきあってきた子たちをちゃんと好きでいたことも、大切にしていたことも知っている。だから続かないことがいつも不思議ではあったんだけど。


「でもぶっちゃけ光乃が悩んでることのほうが意外」

「なんで、悩むよ、さすがに……」

「ウーン。もっとサクッとくっつくと思ってたよ。光乃には藤本しかいないって勝手に思ってたからナァ」


くちびるをつき出す和穂に、わたしは苦笑で返した。

エール交換だというもみじの声が聞こえて、わたしたちは話を切りあげ、持ち場に移動したのだった。挨拶を背番号4をマトモに見ることができなかった。