6-0のスコアで試合は終盤に突入した。
市川は6回に入るタイミングで二番手の投手と代わった。肩の調子が悪いのか、夏の大会前だから休ませておくのか、わからないけど。


そして迎えた8回のウラ。次の回で追いつかれなければ一軍チームの攻撃は最後となる。
ツーアウトで打席に立ったのは倉田くんだった。倉田くんは守るし、走るけど、それ以上によく打つバッターだ。ランナーは一塁。長打が出ればたぶん、また追加点。

ヘルメットのツバを左手でキュッと握り、ぺこりと頭を下げると、バットの先でコンコンと2回、軽く土を叩いてから打席に立つ。

決まってそうするのにはなにか理由があるのかな。ただの癖かもしれないし、このルーティンをやらないと落ち着かないのかもしれない。もしかしたら、彼のなかになにかジンクスがあったりするのかもしれない。

最初の打席から最後の打席までもれなくキッチリやるんだな。思わず、笑ってしまう。おもしろい。倉田くんってどういう子なんだろう。


「さっくんは初球からバンバン打ってくるからコワイよね」


ライト線へ高く上がったファウルボールを見上げながら、和穂が身震いのジェスチャーをしてみせた。


「ほらほら、ピッチャーびびってる!」


茶化すように、それでも小声で言うのは、選手のひいきはしたくないという気持ちがあるからなんだって。
さすがキャプテンの彼女。春日も含めみんなの調子を乱したくないからと、わかりやすく声を上げて彼氏の応援をしないのもほんとにエライよ。

マネージャーやればよかったのにと、これまでに何回も言ってきた。もともと和穂は野球が好きだし、それにくわえ世話焼きで、すごく向いてると思う。でも、健太朗以外のユニなんて洗う気になんないよって、いつもさらりと惚気でかわされる。

たしかに、涼とか、市川とかの汗がぐしょぐしょにしみ込んだユニフォームはちょっとね。こんなことを言ったらまた涼が怒りそうだ。