「色恋は、わかんねえな。ていうか興味ない」
後半に本音が漏れてしまっている。
しょうもない質問をしてしまったことを恥ずかしく思った。高3にもなってなに聞いてるんだろう。それも、三十路を過ぎたヤンキー教師なんかに。
ずっと友達だと思っていた男子に告白されて、自分で思うよりもずっとテンパっているのかも。
「友達の次は男か」
ゴンちゃんは茶化すように言った。チガウって否定しても、ちゃんと否定できているような気がしないから嫌だ。ぜんぶ見透かされている気がしてすごく嫌だ。
「ゴンちゃんはつきあってる人いる?」
婚約者がいるという噂を全面否定してきたはずの照れ屋な教師は、意外にもあっさりと肯定した。いるよって。あんまり簡単に認めるから、なんか、どきどきするじゃん。
「なんでその人とつきあおうと思ったの?」
「好きになったからだよ」
即答だったけど、面倒くさそうな返事。
「ねえ、そのとき、『好きだ』ってすぐにわかった?」
もっと面倒くさい顔をされるかと思ったけど、ゴンちゃんは小さく笑っただけだった。
「おまえさ、そういう話は好きな男としろよ」
ゴンちゃんは、33歳になるこのおじさんは、これまでにいくつの恋をしてきたんだろう。いくつの恋を経て、いまの彼女とつきあうことにしたんだろう。
聞いてみたかったけど、あまりにくだらないとバカにされそうだったので、やめた。
「友達としか見てなかった人とつきあったことある?」
ダメ押しの質問にゴンちゃんは薄く笑い、もううんざりだというようにため息をつくと、煙草の火を消した。そしてゆっくり口を開いた。
「あした、準決勝? せっかくだし見に行こうかな。藤本も出るんだっけか?」
涼の名前が出てビクッとする。この男、色恋のことはわからないとのたまったけど、ぜったい嘘だと思った。
「うん……。ねえ、あしたも勝つから、しあさっての決勝も見に来てよ。そのあとは甲子園も!」
きっぱりと言いきったわたしに、ゴンちゃんがクックと笑う。そして煙草をもう一本取りだすと、ニッと歯を見せた。
「なんか、おまえ、ちょっといい顔になったな」
「なにそれ」
「ん、いい具合に日焼けしたなあと思って」
なに、肌の色の話?
「がんばってるらしいじゃねえか、チアリーダー」
苦い香りの煙が顔面を襲ってきたと同時に、少し離れた場所に見える更衣室から小さな影が出てくるのがわかった。柚ちゃんだ。