土下座する勢いで監督さんに謝罪したらしい正セカンドは、どうやら無事に練習に復帰できたみたいだった。

さっきより幾分もいい動きをするようになった涼に安心していると、ぽてぽてに火照った頬のことを女子3人からつっこまれた。ほんとう、こういうのに慣れていないとごまかすのにもひと苦労だ。


「ところでさっくんには会わなかった?」


和穂が思い出したように訊ねてくる。


「光乃が行っちゃったあと、さっくんも後追いかけていったんだよね」


首は横に振る。朔也くんには会っていない。ついてきていることも、知らなかった。


「すぐ走って戻ってきたけど」

「なんかすごい猛スピードだったね」

「ダッシュ練してんのかと思っちゃった」


3人がけらけら笑いあっているのを聞いて、いきなりはっとして、思わず小さな遊撃手へ目を向けた。じっと見つめているとやがて目が合った。しかしそれは一瞬で、まるで逃げるみたいに、逸らされてしまったのだった。

心臓が大きく脈打つ。どくんという音が頭にまで響いてくるくらい。


もしかしたら見られていたのかもしれない。ぜんぶ、聞かれていたのかもしれない。わからないけど……。

不安にも似た、変な恐怖みたいなものが心に流れこんでくるのがわかって、戸惑った。混乱した。

ぜったいに知られたくない。知らないでいてほしい。どうか、朔也くんにだけは――なぜか、そんなふうに思ってしまう。


けれどそんな気持ちにはぐっと蓋を閉めた。

いまはもう、これ以上なにも考えたくなかった。考えてはいけないような気さえした。


ずっと、ぼうっとしていた。まるで夢のなかにいるみたいな心地でグラウンドのほとりに立っていた。

夕焼けが紺色に染まり始めたのがあっという間だったように思う。気づけば、部員たちは、ありがとうございましたと元気に挨拶をしていたのだった。