見上げると、おもいきり目が合った。いつもよりうんと近い場所でぶつかった視線を先に逸らしたのは涼だ。

なにさ。そんなふうにされるとこっちも意識してしまうじゃない。なんでちょっと顔赤いわけ。


なるほど涼は、わたしを好きなのか。そうか……ぜんぜん、知らなかった。どうしよう。なんか、顔上げれない。


「……で、どうするんだよ」

「え、なにが……」

「俺と、つきあう?」


好いてくれていること、素直にうれしいと思った。こういうのにまったく慣れていないせいかどきどきもしている。

でも、涼のこと、そういうふうに見たことない。考えたこともない。

わたしと涼が、つきあう?


「ごめん、なんか、ちょっとよくわからなくて……。いますぐは、答えらんない」

「倉田とはつきあってないのかよ」


そう言った涼は、いつものふにゃっとした笑顔とはかけ離れた表情をしていた。
とても、とても、切ない瞳。苦しそうに結ばれたくちびる。

急激に胸が苦しくなる。心臓が変な動きをしているみたいな感覚。


涼は、ほんとうに、わたしのことを好きなのかもしれない。


「朔也くんとは……ほんとに、なんでもなくて」


その顔はそれ以上見ていられなくて、思わずうつむいた。


「たまたま家が近くて、たまたま会って、それから話すようになって……いろいろと、あって。でもみんなが言ってるような関係じゃない。たぶん、涼が思ってるような関係じゃない」


なに言い訳みたいにしゃべってるんだろう。

涼は考えているみたいだった。そして、少しの沈黙ののちで、短く「わかった」とつぶやいた。


「いますぐ答え出さなくていいから。気持ちに整理ついたら、返事ちょうだい」


ぽすんと、頭の上になにかが乗っかる。涼もゴンちゃんに負けないくらい大きな手のひらをしていた。すぐに離れていったそれを視線で追っている途中で、その背中がグラウンドへ向かっているということに気づいた。


頭のてっぺんが妙に熱かった。

ちゃんと考えなくちゃいけないんだと思う。つきあうかつきあわないか。涼がぶつけてくれた気持ちの分だけ、わたしも、真剣に。

つきあうって、なんだろう。涼が彼氏になって、わたしが彼女になるということ。恋人になるということ。それってどういうことだろう。


『ぶっちゃけ藤本はほかの男子と違うでしょ?』
『もう藤本とつきあっちゃえばいいのに』

和穂に言われたことが台風みたいに思考のすべてを飲みこんでいく。

たしかに涼はほかの男子と違っていると思う。
だったら、つきあっちゃえばいいんだろうか?

そういうもの?