「……だったらなんなわけ」


喧嘩腰でしゃべられると、どうしても喧嘩腰で返しちゃうんだよ。相手が腐れ縁のクラゲ男だとことさら。

きちんと手入れされているつり上がった眉がぴくりと動いた。


「ていうか、いまはそんな話してないでしょ」

「してんだよ」

「ハァ?」


バコンと、つぶれたマメだらけのこぶしが右側の壁を殴った。頬にビュッと風を感じた。

このポーズは完全に壁ドンとやらと同じだと思うのだけど、そこに至るまではドラマで見たのとえらい違う。これはぜったい喧嘩売られてる。現役の球児とまじめに喧嘩して、勝てるかな?


「なんなんだよ……。おまえら、なんなんだよ? なに俺の知らないところで仲良くなってんだよ。なに名前で呼びあってんだよ。なんで倉田が光乃のお守りつけてんだよ。意味わかんねー」


イミワカンネーのはこっちだ。
いきなりなに言ってるの? なんで、わたし怒られてるの?


「おととい、放課後、手つないでグラウンド飛び出してった光乃と倉田見て、ガーッと頭に血ィのぼったみたいになって。そっから、試合も、練習も、ぜんぜん集中できなかった」

「……ソレとコレとなんの関係があるの」

「わかんねーのかよ」

「わかんないから聞いてるんじゃんっ」


イラついたようにもういちど、ドン。


「俺が光乃を好きだからに決まってんだろ!」


こんなにブチギレられながら告白されることってある?

あっけにとられて、あまりに驚きすぎて、状況についていけなくて、ぽかんとまぬけに口をあけているだけのわたしに、涼が小さく舌打ちをした。こんなやつにこんなことを言ってしまったのは実に不本意だという感じで。


「俺だってびっくりしてるんだよ……。このウザイもやもやの正体が嫉妬だってわかったとき、ウワ、俺って光乃のこと好きなのかよ、嘘だろ、マジかよって思ったし」


なに、その言いぐさ。すごく腑に落ちない。