微動だにしない相棒のことを、朔也くんも気にしているようだった。やがて、もう我慢できないってふうに小柄な体がそちらへ寄っていこうとし、けれど、それと同時に涼は動きだしていたのだった。


ダリィって表情のまま、左手につけていたグローブを乱暴に外す。そして大股でこちらへ向かってくる……。

涼はわたしたちになど目もくれず、さっさとグラウンドを出ていった。

どうやら『やる気がないなら出ていけ』を実践したようだ。バカだ。

ぜったい、バカだ。


「涼さんっ」

朔也くんが追いかけてこようとする。

「放っとけ!」

監督さんがそれを制止する。


「ちょっと涼っ」


たまらず、わたしも声をかけた。でも振り返ろうともしないんだ。


「待てっ、バカっ、りょうっ」


走って追いかけた。歩いている涼にはすぐに追いついた。腕をつかむ。振り払われる。肩をつかむ。振り払われる。おまけに、なにを言っても無視された。めちゃくちゃ腹立つ。

追いかけっこは部室に到着したところで終わった。古びた銀色のドアノブに手をかけた涼が、冷たい目でわたしを見下ろした。


「ねえ……まさかほんとに帰る気?」

「こんなんで練習参加してもチームに迷惑かかるだけだろ」


ウワ、最高に不機嫌な声。


「なんかあったの? ずっと様子おかしいよ。連絡も無視してさ」

「……べつになんも」

「あのさ、みんな心配してるんだよ。いったいなにをそんなにふてくされてるわけ?」


うっとうしそうにされる。そういう態度の涼を、わたしもうっとうしく思う。

なんだよ。面倒くさいよ。涼らしくない。そういえば、こんなふうに機嫌を悪くしているところ、もしかしたらはじめて見るかもしれない。

ほんとに、いったいなにがあったんだろう?


「大事な時期でしょう。朔也くんも心配してたよ。きのう、すごいいっぱいカバーしてもらってたよね」

「倉田とデキてるんだろ」


びっくりした。まさか、こんなタイミングでそれを言われるとは思わないじゃん。


「デキてるんだろう?」


涼はもういちど言った。見たこともないようなコワイ目がこっちを向いて、ちょっと気おされそう。