野球部はきょうも元気ハツラツだ。

入口のすぐ隣を4人ならんで陣取り、時にしゃべりながら、時に黙りこくって、練習風景を見守った。部員たちはすぐにこっちの存在に気づいたようだった。

朔也くんがそわそわしながら視線を送ってくるたびに、なぜかわたしが3人から盛大に冷やかされるんだ。


ねねちゃんに再会した放課後のことは瞬く間に噂話として広まった。

3年の村瀬がいきなり野球部の練習に乱入し、2年の倉田と手を取りあってどこかへ行ってしまった――

特に野球部関係の生徒のなかではすごいことになっているみたいで。あのときのわたしがあまりに鬼気迫っていたんで、なにかと尾ひれがつきまくっているらしい。

すぐに夏休みに入ったせいで、きちんと説明している時間がなくて、ほとんどの生徒にとっては朔也くんとわたしはつきあっていることになっているというんだから困ったな。

申し訳ないことをしてしまったなと思う。監督さんに叱り飛ばされたというのもそうだけど、噂になってしまったことが。夏休み明けにはみんな忘れてくれているといいけど。


とつぜん、監督さんが怒鳴り散らしている声が聞こえてきた。怒号を浴びていたのは涼だった。


「あちゃー。藤本、きのうからどうしちゃったんだろうね? 光乃なんか聞いてない?」


和穂の質問にはかぶりを振った。実は昨夜もういちど涼にメッセージを送ってみたのだが、けっきょくなんの返事もなかったのだ。

バッセンで顔を合わせたとき朔也くんにも聞いてみたけど、わからないと言われた。でも調子は悪かったと思うって。それは、相棒やってる彼がいちばん強く感じていたに違いない。


「いいかげん集中しろ! やる気がないなら出ていけ!」


いつもふにゃふにゃして、つかみどころのない、軟体動物みたいな男でも、あんなふうに監督さんから怒鳴られるとヘコむものなのかな。

涼はぐっとうつむき、こぶしを握りしめ、その場に立ちすくんでいた。

妙に切ないような気持ちになってしまう。あんな涼は見たくないな。やっぱり、世の中たいしたことないぜって笑ってるのがいちばんいい。