和穂は、戸惑ったような、厳しいような目で、じっとわたしを見つめていた。わたしも見つめ返した。
どうしよう。なにから言えばいい?
「ごめん、なさいっ」
さんざん考えて、悩んだ答えがコレなんだから嫌だ。もっといろいろ言いたいこと、言うべきことはあったと思うんだけれど。でも、たぶん、いちばん言わなければいけないことだった。
「ヒドイこと言ってごめんっ。なにもわかってなかったのはわたしだ……」
和穂はずっと黙っている。
「和穂の言うとおりだった。わたしは4年前からなんにも変わってなくて。変わろうとしてなくて。逃げてばっかりで……」
言葉が喉に引っかかりながら出ていくのがわかる。でも、しゃべれる。だから、しゃべる。
伝えなくちゃいけないことが、たくさん、たくさんあるんだよ。
「挙句の果てに最低な言葉で和穂のこと傷つけた。きっと誰より気持ちを共有できてたはずなのに、ずっといっしょにいてくれたのに、わたし」
「チアやることが決まったとき、うれしかったの」
遮るように、強い声が割りこんだ。
「雪美が強引に決定しちゃったとき……ほんとはすごくうれしかったの。光乃がタカくんのことでいっぱい苦しんだの知ってたのに、まだ野球を避けてるの知ってたのに、わたし、あのときね、ずっとやりたかったチアをやれてうれしいって思っちゃったんだよ」
震える語尾に目を上げると、和穂の目にたくさんのダイヤモンドが溜まっていた。とたん、鼻がつんと痛くなった。
「タカくんが野球できなくなっちゃって、わたしだって悲しかった。光乃と同じ気持ちになったはずだった。でもずっと野球の傍にいて、健太朗ともつきあったわたしは、けっきょくこれっぽっちも光乃の気持ちなんかわかってなかったのかもしれない。無意識に、いっぱい、いっぱい、傷つけてきてたのかもしれない……って」
そんなことない。言うかわりに、ぶんぶん首を横に振る。
「わたし、すごくこわくなったの。だから思わずキツイこと言っちゃった。光乃、ごめん、ごめんね……最低なのはわたしだよ」
いっしょに、わんわん泣いた。バカみたいにゴメンを言いあった。約2時間の試合を終えて汗ぐっしょりな体を、これでもかというほど強く抱きしめあいながら。
「和穂といっしょにチアやれて、すごくうれしい。いっしょにスタンドから応援できてすごく楽しい」
「わたしのほうが、うれしいし、楽しいよ。光乃といっしょに見る野球がやっぱりいちばんおもしろいもん」
夏から夏へ、4年前からきょうへ、たしかに進んでいるのを感じる。
その道のりは嫌になるほどデコボコで。えらく曲がりくねっていて。方向音痴なわたしはきっと、迷子になってしまっていた。
それでも、いつまでも待っていてくれる人はいる。そっちは違うぞって教えてくれる人はいる。
ゴンちゃんの言ったとおりだ。
メチャクチャ気が合うし、たまに喧嘩するけど、いっしょに泣いて、笑って、おまけに野球観戦までつきあってくれる友達って、きっと死ぬまで見つからないな。
和穂以外に、ぜったいいないな。