――高校入ったらチアやろうよ!
中学のころ、思いつきみたいに和穂が言ったその言葉に、わたしはソッコーで賛成したんだ。ふたりで短いスカートはいて、ポンポン持って、スタンドに立てる日を待ち遠しく思っていた。
それなのに、おにいが野球できなくなっちゃって、わたしは逃げるように野球と関わらなくなって。いつの間にか、そんな約束はなかったことになっていた。
きっと和穂はチアをやりたかったはずだ。春日とつきあうようになってからはなおさら、ぜったい。
でも、やらなかった。やれなかったんだ。わたしがいつまでもおにいのことでグジグジしていたから、そんなわたしがずっと傍にいたから、つきあってくれていたんだ。
夏のはじめ、チアリーダーに参加することが決まったとき、和穂はゴメンと言った。何度も何度も言った。和穂が謝る必要なんてこれっぽっちもなかったのに。
それは、わたしのこと、誰よりわかってくれていたからじゃないの。
4年前の夏、マウンドでうずくまる大好きな人の痛々しい姿に、いっしょに泣いたからじゃないの。
和穂は、いつまでもあの夏にとらわれたままのわたしを、ずっと待っていてくれたんだと思う。
無理に励ますこともせず。変な同情を見せることもなく。ダメな友達をエラそうに叱ったりもしないで。
ずっと隣にいて、なんでもなく笑って、野球の話はしないで、待っていてくれたんだ。わたしが前に進むのを、諦めないでいてくれたんだ。
どうしてあんなこと言っちゃったんだろう。
『――和穂になにがわかるっていうの』
どうして、あんなことが言えたんだろう?
急いでねねちゃんにお別れを言って、球場を飛びだした。学校用のワゴン車に乗ろうとしていた黒いポニーテールをおもいきり引っぱった。
「イタッ。ちょっと、なにすんのっ」
和穂がしゃべった。わたしを見た。
たった一日会話していないだけなのに、喧嘩して口をきかないのははじめてじゃないのに、ずいぶん長いこと会っていなかったような感じがする。
今回の喧嘩はたぶん、これまでのどれとも違っていると思う。