これまでは点が入るたびに和穂と抱きあっていたのが、当然だけどこの試合では一度もなかった。ぜんぜん試合に集中できていないのが自分でもわかって、こんな気持ちでスタンドに立っていることが選手たちに申し訳なかった。
けっきょく市川は投げなかった。今後のための温存なのか、もうまるっきりダメなのか、わからないけど。
でも、無理に投げることがなくてよかった。ぜったいよかったと思う。
それと、やはり涼の調子があまりよくなかったのだ。初回の守備からあきらかにダメだった。ひと試合のうちに2度もエラーをしやがった。
やっぱりきのう返事がこなかったのには理由があったんだと思う。でも、なにが原因なのかは皆目見当もつかなくて。
もしかしたらどこか痛めているのかもしれない。もしそうなら、ほとんど毎日顔を合わせているくせに、わたしはどうして気づくことができなかったんだろう?
あまりにも絶不調だ。視界があまりにも不透明で、試合中に何度かめまいを起こした。
それでもチームは5-3で勝利をおさめ、ついにベスト4を決めたのだった。スタンドまで挨拶をしに来てくれた選手たちにオメデトウとアリガトウを言ったけど、涼は一度も顔を上げなかった。
いつもぜったい、なにかと絡んできやがるのに。本当にどうしたんだろう? 今夜、また、メッセージ送ってみようか……。
「みつのちゃんっ」
「あ……ねねちゃん」
スタンドから捌けていくときに再びねねちゃんと会った。朔也くんにオメデトウを伝えておいてほしいって、はじける笑顔で言われた。
「さくやくんカッコよかった!」
きょうもかなり活躍していたもんね。ねねちゃんが見てたからもっともっとがんばれたんだと思う。
そう伝えると、額に汗を光らせている少女は肩をぎゅうっとすくめていっぱいいっぱいに照れていた。
あさっての準決勝も応援に来てくれるって。小学校から大学までずっと野球をやっていたらしいねねちゃんパパがいちばんはりきっていて、ちょっとおかしかった。
「あのね、みつのちゃんもスッゴクかわいかったの! ねねもこのお洋服きたい!」
「うん、もう少し大きくなったら着れるよ。チアリーダーっていうんだよ」
「チアリーダー……」
黒の面積が圧倒的に大きい瞳がチカチカまたたく。
「じゃあ、ねねもチアリーダーになる! そいで、みつのちゃんといっしょにさくやくんのオウエンするっ」