「倉田朔也くんっ!」
想像以上にバカデカイ声が出た。それ以上のバカデカイ声を出しながら守備練習をしている部員みんなの時が止まったのが伝わってきた。
さすがにシマッタと思ったけれど、怯まない。というより、そんなふうに感じる余裕がなかった。それ以上の気持ちがあった。
「光乃?」と、涼の戸惑った声。
「村瀬?」と、春日の心配そうな声。
そのもっと奥のほうで、呼ばれた張本人は、困惑を隠しきれない様子でわたしを見つめていた。
「朔也くんっ」
ローファーでグラウンドを横切る。やわらかい土を蹴散らして走る。監督さんがなにか言っている。たぶん怒ってる。かまっていられない。
「ちょっと来てっ」
その場でかたまったまま動けないでいるユニフォームを引っぱった。すっかり汚れてしまっている練習用のユニフォームは、わたしの指先を簡単に黒くした。
「お願い」
ひとえのたれ目があきらかに混乱していた。それでも、ただただ懇願し続けるしかなかった。
ねねちゃんに会ったよ。いま、すぐ近く、すぐそこで、朔也くんのこと待ってるんだよ!
なにひとつ言葉にならない。気持ちが高ぶりすぎると人間ってマトモにしゃべれなくなるんだな。
「……でも、部活」
やっと、かすれた声が返事をした。
「いますぐじゃないとダメなの!」
ほかの部員と比べてやはり華奢な肩がびくっと跳ねる。タダゴトじゃないということを悟ったのか、真剣にわたしの顔を覗きこむと、彼は大きく喉を鳴らした。
それが合図のように、スパイクとローファーが同時に土を蹴った。
今度はひとまわり大きな手を引いていく。朔也くんはなにも言わないでついてきた。左手にグローブをくっつけたまま、右手をわたしに引かれたまま。
わたしよりうんと速く走れるはずの両足が速度を落としたのは、ちょうど校門が見えたところだった。