「ねねにもあるの、おまもり!」
――“ねね”?
「みせてあげる」
よたよたとランドセルのなかをまさぐる少女から目が離せなかった。
こんな偶然あるわけない。この子が朔也くんの言っていた『ねねちゃん』だなんてことありえない。そんなのってちょっと都合よすぎるよ。
でも、もしかしたら本当に――
「これっ。ねねのおまもりなの!」
野球ボール。
小さな小さな手のひらに握られているそれを、咄嗟にその上からぎゅっと握った。この手をいま離してしまったらいけないと、なんとなく、どうしても思ったんだ。
「ねえ、これ……これ、どうしたの?」
声が震えてしまう。
「もらったの、ヤキュウのおにいちゃんに! ねね、コウツウジコにあったんだけど、キセキテキにケイショウだったの。ぜったい、ぜったいね、このボールもってたからなんだよ! だっておにいちゃんが『おまもり』って言ってたもん!」
こんなことがある? こんな偶然が。こんなめぐりあわせが。
こんな、奇跡みたいな出来事が、ある?
「『野球のお兄ちゃん』には、それから会ってないのかな」
「うん。ねね、おひっこししちゃって、ずっと会えてないんだ。ありがとうって言いたいのになあ」
いますぐ伝えたい。本当に大丈夫だったよって。
ねねちゃんは『野球のお兄ちゃん』のこと覚えてるよって。
生きてるよ。笑ってる。すごく、すごく、あったかい手のひらだ。
朔也くん。伝えたい。
この世界中の幸福をかき集めたような奇跡を、いますぐに。
「ねねちゃん。お姉ちゃんね、もしかしたら『野球のお兄ちゃん』とお友達かもしれない」
ふたつの大きな瞳が輝いた。そこに映るわたしも、いっしょに輝いた気がした。
「ほんとうっ?」
「うん、ほんとうだよ。会いたい?」
首がとれちゃうんじゃないかってくらいの勢いでうなずく少女の手を、今度は両手で包みこむ。強く。優しく。
「たぶんね、お兄ちゃんもねねちゃんに会いたいと思ってるよ。すごくすごく思ってるよ」
ひとまわりも小さな手を引いて走った。1キロほど歩いてきた道をまっすぐ引き返した。校門横に少女を待たせると、わたしはさらに走った。
西グラウンドに、彼の姿はあった。