「いちばん欲しいと思ってるものにこそ、簡単に裏切られる世界だよ。神様はおまえが思うよりずっと性格ワリィんだ。神頼みなんてウソっぱちだ」


ゴンちゃんは軽快に、だけど大まじめに言った。こんなにキッパリ神様を否定する日本人はこの男くらいだと思った。


「けど、どれだけ絶望しても、拒絶しても、人生放り投げたくなっても、つなぎとめてくれる存在は天上じゃなく地上にいる。誰にでもいる。絶対にいる。おまえも浮かぶ顔があるんじゃねえのか」


お父さん。お母さん。和穂。

おにい。

涼。春日。市川。

朔也くん。


どうして、次から次へと思い起こすことができるんだろう?


「まだまだ『詰み』じゃねえよ」


大事な人たちでいっぱいになった脳ミソに、独特のしゃがれ声がぽつんと落ちた。


「おまえ、まだ18だよ。この先何年あると思ってんだ」


気が遠くなる。この先の何十年を思うと気を失いそうになる。それくらい、長く、果てしない道だ。


「いろんなものと出会うよ。いいものとも、悪いものとも。もしかしたらこれよりもっとデカイ絶望だってあるかもしれない」


見上げると、ゴンちゃんは目を細めてわたしを見下ろした。小娘をバカにするような、同志を励ますような目だった。


「それでも俺ら、性格ワリィ神様のせいで、後戻りも停滞もできないようになってんだな」


つまり、前に進むしかないのか。こわくても、歩いていかなきゃいけないのか。デコボコ道を。自分だけの道を。

ゴンちゃんが、お父さんが、お母さんが、おにいが、そうしているように。みんながきっとそうしていくように。


「わたしの未来、輝いてる……?」


子どもみたいなことを聞いてしまった。でも、聞かずにはいられなかった。


「いろんな輝きがある。くすんでるとしても、おまえがきれいだと思うなら、それは間違いなくおまえだけの輝きだよ」


おにいは、見つけたのかな?

野球以外の輝き。おにいだけの輝き。新しい夢。未来。自分の道を。

わたしは、見つけられるかな?


にぱっと笑う顔が頭に浮かんで、胸のいちばん奥がきゅうっと苦しくなった。

そう。あるよ。見つけたんだ。なくしたくない輝き。わたしだけの光。