ゴンちゃんはきっとがんばったんだ。がんばって、がんばって、先生になったんだ。
平坦な人生なんてきっとない。みんな泣いて、悩んで、苦しんで、時にはきしむ体に悲鳴を上げながら、それでもデコボコな道を歩いてきたのかもしれない。
「ゴンちゃんはいい先生だよ」
思ったことが素直に言葉になった。
「俺なんかまだまだダメだよ」
ちょっとプリンになってきた頭の上に、あったかいものが乗っかった。
「テメーの生徒を救うどころか、悩みさえ打ち明けてもらえない」
視界がぐじゅっとにじむ。鼻の奥がつんとしたのでぐっと飲みこむ。
頭をすっぽり包みこんでしまうくらい大きな手のひらが乱暴に動きだした。
ヤダ、もう、ボサボサになっちゃうじゃん。最低だよ。やっぱりゴンちゃんって教師に向いてないよ。
あっちこっちに乱れる髪が完全に顔を隠したとき、ぼろっと、左目から涙がこぼれた。
「……和穂と喧嘩した」
「そうか」
「市川と春日にキツイこと言った」
「うん」
「お父さんと、お母さんと、まだちゃんとしゃべってない」
「うん」
「おにいが」
今度は右目から、しずくが落ちていく。
「おにいが、野球できなくなっちゃった……っ」
きっとべつにたいしたことない事件。野球肘なんてめずらしい話でもない。故障して野球を諦めた選手なんて、たぶん掃いて捨てるほどいるんだろう。
そう思う。
そう思おうとしていた。
でも、だけど、やっぱり、割りきれない。しょうがないよねって言えない。諦めきれない。
もう二度と戻ってこないことをわかっていても。
――おにいが、わたしの夢だった。
「親御さんが言ってたよ。もしかしたら娘のほうが、本人よりも息子の野球に対して真剣だったかもしれないって」
ぐりぐり、ぐりぐり、頭を撫でるのをやめないでゴンちゃんは言った。
「悔しかったな」
ダムが決壊したようにぼとぼと落ちる涙をどうすることもできず、ただ泣きじゃくった。声を上げて泣きじゃくった。
悔しかったよ。
悲しかったよ。
この先の道を歩いていくのが、こわくなったよ。