「昔から教師になりたいと思ってた?」
知らず、口にしてしまっていた。ゴンちゃんは不意を突かれたような顔でこっちを見ると、次に、豪快に笑った。
「ゼンッゼン! 俺がおまえくらいのころは、むしろ教師なんか全員死ねと思ってたよ」
「ふうん……。じゃあ、グレてたってのはほんとなんだ?」
「うわ、ダセェ言い方すんなよ。でも、まあ、当時はダサかったな。牙むいてイキがって、世の中ぜんぶ嫌って、喧嘩ばっかりしてさ。カツアゲ万引きなんでもした。毎日、クソみてえに退屈だったよ」
でもなにをしても満たされなかったと、ゴンちゃんは口元に笑みを浮かべながら言った。
当時の自分を恥じているような、なによりも大切に思っているような、なんともいえない不思議な目だった。
きっとこれは、大人しか見せることのできないまなざしだ。
「ストッパーがいなかったんだよ。なにしても、誰も止めてくれなかったよ。両親が不仲で、ガキになんかひとつも興味なくて。俺、たぶん誰かに見てほしかったんだよな。けっきょくスネてただけだったのかもな」
煙草をふかしながら、元不良少年の現不良教師は、遠い記憶を思い起こすように語る。
「けど、ぜんぜん誰にも見てもらえなくて、それどころか世界は遠ざかってくばっかりで、もうどうでもいいやって思っちまってさ。ここに俺は必要ねえんだってもっとスネちまって。
あるときバカデカイ喧嘩して、半殺しにして、されて、警察沙汰になって、ぜんぜん行ってなかったどうでもいい高校を退学させられるってときに、たったひとりだけ俺をつなぎとめてくれた人がいたんだ」
たぶんだけど、それってゴンちゃんの先生だった人だ。ゴンちゃんは、その人がきっかけで、教師になろうと思ったんだ。きっとそう。
訊ねるつもりで茶色い瞳をじっと見つめると、ゴンちゃんはなにも言わないで、でも答えてくれるみたいに一度だけうなずいた。
「ずっとトガってたせいで甘え方なんかわかんなくて、最初はエラい勢いで突っぱねてたけどな。それでもその人は俺を諦めなかった。それが完全な信頼に変わった瞬間、ガキみたいに涙出てさ。ああ、俺はこの人に救ってもらえたんだって思った。教師になろうって思った」
大きく煙を吐き、吸殻を携帯型灰皿に押しこむと、ゴンちゃんは床に座りこんでいるわたしの隣に移動してきた。ほんのり、煙草くさい。
しゃがみこむ姿勢が妙に似合っていて、ゴンちゃんのいちばん大切な時代を垣間見た気がして、なんだかほろ苦かった。