ずっと、和穂としゃべってない。

夏休み前の登校最終日にこんなのって最低だな。終業式だけでチャッチャと終わればまだよかったけど、ウチの学校は前後期制なせいでしっかり授業が6時間目まであって、それも最悪だ。


なにかといっしょにいるわたしたちが無視しあっているのはかなりめずらしい光景らしく、教室のいたるところから遠巻きに見られているのがわかった。でも誰かからそれを突っこまれることもなくて、腫れ物扱いされているんだなと思った。

べつに、無視したくてしているわけじゃない。むかついてるからこうしているわけじゃない。和穂のほうは腹を立てているんだろうけど。
わたしのほうは、話すことがないだけだ。いったいなにを話しかけたらいいかわからないだけだ。


涼がずっとくっついてきて「なにがあったんだよ」と一日中うるさかった。
とうとう焦れてバッテリーのいる2組まで聞きに行ったが、よくわかんねえ、とはぐらかされたみたいだった。涼は文句をたれていたけど、ふたりにおにいのことは話していないし、本当に『よくわかんねえ』んだろうと思う。



「村瀬、おまえ、ちょっと残ってけ」


ゴンちゃんに頭を小突かれたのは、帰りのHRが終わって少ししてからだった。

友達どうしで夏休みの予定を約束する声があちこちから上がっているなか、ひとりぼっちで鞄を片付けているわたしはさぞかし暇そうに見えたんだろう。和穂はさっさと行ってしまった。


「また雑用?」


ウンザリした声が出てしまう。


「どうせ、暇だろ」

「暇じゃないし」

「ちょっと仕事持ってくるからこのまま教室で待っとけ。くれぐれも帰るんじゃねえぞ」


一方的に言い残したゴンちゃんは、怪獣みたいな足音を立ててふてぶてしく教室から出ていった。

なんで、無視するわけ?


「もうっ、暇じゃないってば!」


なんでわたしばっかり。いつも、わたしが雑用させられる。
なんで?
髪が茶色いから? 進路希望を提出しないから?

イライラして泣きそうになる。子どもみたいに駄々をこねたくなる。

ゴンちゃんなんか、嫌いだ。和穂なんか。お母さんなんか。お父さんなんか。市川なんか。春日なんか。おにいなんか。みんなみんな。

大嫌い。むかつく。イライラする。

なんで、わたしばっかり!