「イッチーはタカくんじゃない。さっくんも違う。健太朗も、藤本だってそう。みんなそれぞれが、それぞれとして、この夏を一生懸命に闘ってるんだよ」


バッテリーがなにかこっちに言葉をかけたけど、和穂はかまわず続けた。わたしも頭がカッカと湧いていて、ふたりがなにを言ったのかはよくわからなかった。


「光乃だけが4年前にいる」

ちがう。

「光乃だけが取り残されたままでいる」

ちがうっ。


ひたすら首を横に振り続けていると、ゆさゆさと体を前後に揺すられた。


「タカくんもおじさんもおばさんも、光乃と同じように痛くて、でもがんばって前に進んだんじゃないのっ?」

「和穂になにがわかるっていうのっ」


いきなり、頬に衝撃が走った。頭ぜんぶ持ってかれたんじゃないかと思うくらいのビッグインパクト。

最近、よくひっぱたかれてるな。


「わたしだってわかりたかった! わかってあげたかった! でもいまは、光乃の気持ちなんかこれっぽっちもわかりたくないっ」


叫んだ和穂はわんわん泣いていた。背を向けた彼女の頬をつたっていた涙が宙に舞い、夏の日差しを浴びてきらきら輝く。きれいな涙だった。わたしのために流された涙だった。

春日にゴメンと謝られる。キャッチャーは泣いている恋人を追いかけていった。しばらくして、取り残されたピッチャーがゴメンと言った。わたしは、ゴメンと言えなかった。