どうしてここまで涼とのことを疑われるんだろ。ほんとに不思議でしょうがない。

ぜんぜん、甘い空気なんて1ミクロも流れてないんだけどな。むしろ言いあってばかりだと思うんだけど。よけいなアレコレまで……。もしかすると、それがダメだったりするのか。


「でもさ、ぶっちゃけ藤本はほかの男子と違うでしょ?」


そう言われるときっとそうだから、うなずかざるをえないそういう質問は困るんだ。


「じゃあ、さっくんは?」


後頭部をバコッとはつられた感じがした。


「ただの後輩?」


わたしを見つめる和穂の目がいつになくイヤらしく光っている。

これもう、なにを言ってもダメなんじゃない?


「朔也くんは『ただの』じゃなくて、『特別にかわいい』後輩ね」

「えーっ」


我ながらかなりしっくりきた返答を、和穂のほうはやっぱり納得していないようだった。眉根を寄せて下くちびるをつき出して、そんなつまんない返事はいらないよって、顔の筋肉ぜんぶ使って言われているみたい。


「光乃って見た目と違って超絶オクテだよね」

「『見た目と違って』ってすごいいらない一言なんですけど」

「だって見ててムズムズするんだもん。もう藤本とつきあっちゃえばいいのに」

「え? そこ、けっきょく涼なの?」


お手ごろでしょ、とか知らないところで言われちゃって、涼も涼で気の毒だ。

涼がお手ごろな男なら、朔也くんはどんな男なんだろう。
あのにぱっとした顔を思い浮かべて、男というよりは男の子だなあと思ってしまった。少年が抜けきらない感じ。それは、高2男子を相手にちょっと失礼すぎるかな。


つぶれたマメだらけの手を知っている。華奢に見えて、実は肩から腕にかけての筋肉がすごいということも。わたしとは違うホネホネした体だということも。

なんで知ってるんだっけ?


そういえばわたし、朔也くんを抱きしめてしまったんだった。勢いだったけど、たしかにぎゅっとしちゃった。

急に思い出してカッと顔が熱くなる。あのときは心からそうしたいと思ったはずなのに、なんで、いまさら恥ずかしくなるんだろう。
あれを、朔也くんはどう思っているんだろう。