4チームのうち、2チームが向かい合って挨拶をした。涼や倉田くんのいる一軍チームはいきなり試合をするみたいだった。キャッチャーマスクをかぶっている春日はほんとにサマになる。2年前、和穂がひと目で惚れてしまった姿だ。
だんだんとグラウンドのまわりに人が増えてきていた。学年関係なく、男女関係なく、けっこうな人数だ。
ウチの野球部ってこんなに人気あったんだ。夏の大会は4強くらいまでは残っちゃうし、部員もそこそこ多いし、公立高校にしてはかなりスゴイほうだもんね。
黒みがかった土が盛られているマウンドで、エースの市川が大きく振りかぶった。
2組のデカ男・市川と、女房役の春日は、入部当初からずっとバッテリーを組んでいる。ふたりは今年はじめて同じクラスになったが、最後の年ということもあって春日はなにかと口うるさくしているらしい。食べるもの、授業中の姿勢、などなど。彼女より大切にしてるんじゃないかってたまに和穂がぶりぶり怒っている。
パァンと良い音が響きわたった。光のような速さで春日のキャッチャーミットへ吸いこまれていった白球を、目で追うのが精いっぱいだった。おにいが投手だったから球種はひと通り覚えたけど、なにを投げたのかさっぱりわからなかった。
市川って剛腕系の投手なのか。デカイもんね。
「何キロ出てた?」
「わかんないけど、イッチーはマックス148出るらしいよ!」
ぼう然と訊ねたわたしに、和穂が興奮しきって答えた。
スピードガンがあればよかった。久しぶりにそんな気持ちになってしまう。やっぱり、ピッチャーはいいな。かっこいいよ。おにいも、本当にかっこよかったんだ。
「でも、イッチー投げすぎで、最近ちょっと肩痛めてるっぽいって。病院には通ってるみたいだけど……」
和穂がはっとしたように途中で口を押さえる。
おにいは、高校3年の夏に、投げすぎで肘を壊した。再起不能なまでにぶっ壊した。
違和感を覚えたときにすぐ治療に入っていればぜんぜん問題のない故障だった。
痛めていることをわかって、本人も投げ続けたし、チームも監督も投げ続けさせたのがいけなかった。
夏が終わるまでは、と。これで引退だから、と。
マウンドでうずくまるおにいの姿、たぶん、一生忘れない。
もう野球はできないと宣告されたときのおにいの顔、忘れられない。