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バッティングセンターには先客がいた。間違いなくきょうのヒーローだった彼は、わたしに気づくなりぱあっと表情を明るくした。

朔也くんは、ちゃんと笑顔だった。


「こんばんは!」


相変わらず元気な挨拶だな。いかにも野球部という感じの。

朔也くんのこれが、好きなんだ。きのうは聞くことができなかったからうれしくて、自然とわたしも表情が緩んでしまう。


「こんばんは。ベスト8だね。おめでとう!」

「ありがとうございますっ」


褒めてあげたいことがたくさんあった。よく打った、よく捕った、よく走った、そういう場面がきょうは本当に多かった。

なかでも初回のファインプレー、サードがはじいた打球を簡単にアウトにしたところは、鳥肌ものだったよ。そう伝えると、朔也くんは目尻を下げて笑った。


「はいっ。練習の成果が出てよかったです」


あんなスーパープレーを『練習の成果』で片付けちゃうんだ。
きっとあのプレーがスーパーだったのでなく、この男の子じたいがスーパーというわけだね。知ってたけど。


「でも、きょう勝てたのはスタンドのおかげです」


急に優等生みたいなことを言うので笑ってしまう。小さなスーパー球児が不満げに口をひらく。


「ほんとですよ! 応援、すごい聞こえてました。光乃さんの声も、聞こえてました」


あ、そういや初戦のあと涼もそんなことを言っていたな……。

思い返しているのが疑っている顔に見えたらしく、朔也くんはすねたように口をとがらせながら「聞こえるんです」と念を押した。


「試合前もうれしかったです」

「試合前?」

「『がんばって!』ってやつ」


思い返して恥ずかしくなる。あんなデカイ声で言ってしまって、まわりにも、ベンチのみんなにだって、しっかり聞こえていたはずだ。

だけど言わずにはいられなかった。いつもと同じかわいい笑顔に、きのうの悲しい泣き顔がどうしてもダブって、ぎゅっと苦しくなったんだ。気持ちを伝えなきゃって思った。