二番が正確な送りバントを決めて、ワンナウト二塁。三番はセカンドゴロでアウトになってしまったが、その間に朔也くんが盗塁を決めていたので、ツーアウト三塁となった。

まぎれもないチャンスだった。

三塁に俊足の倉田、打席に四番の春日。いつものアフリカンシンフォニーでなく、オリジナルのチャンステーマが割れんばかりに鳴っている。スタンドは煮立った鍋みたいにごうごうと燃えさかっていた。


イケメンピッチャーが右の袖で汗をぬぐう。ちらりとランナーを気にする。そして、バッターへ視線を戻す。

あきらかに、春日のみに集中できていない。でもその気持ちはわかる。朔也くんって、一瞬でも隙があれば、ホームにだって容赦なく突っこんできちゃいそうだから。


いつの間にかフルカウントで追い詰められていた春日が、腹をくくったように大きなスイングをした。和穂が悲鳴のような声を上げたのと同時に、白球はショートの方向へ強く走っていった。

ヒットにはならない打球だった。

迷いを見せてしまったのは、体当たりで捕球したショートだ。


本来ならば一塁へ投げるのがセオリーだと思う。でも、朔也くんのものすごいスタートダッシュが視界に見えて、きっと心が引っぱられちゃったんだな。

一塁か、ホームか――

たぶん、迷いはほんの一瞬だった。でももう間に合わない。

土を蹴散らしていく倉田朔也のスパイクは、風のような速度でホームを踏み抜いていったのだった。


7-6、サヨナラゲーム。

ショートが膝から崩れ落ちる。完全な判断ミスだった。彼の、ミスだ。

なんという幕切れだろう。
なんてあっけないんだろう。

夏は、なんて厳しいのだろう。


いろんな意味のこもった涙がこみ上げてきた。感動屋の和穂なんかはもうぐしゃぐしゃに泣いていた。雪美ともみじが抱きあっていた。

チームどうしの挨拶が終わり、スタンドへ駆け寄ってきた選手たちに向け、おめでとうとかありがとうとかお疲れさまとかの拍手をめいっぱい送った。

本当に、いい試合だった。いい試合だったと思う。切ない幕切れさえも、運が味方してくれていたんだよって思えるくらいに。


これでベスト8。

あと3つ勝てば……。考えかけて、やめた。夢みたいな言葉を頭から追いだすように、オメデトウと叫んだ。


市川が左肩をぐっと押さえているのを、見てしまったんだ。