3回戦の相手は、数年に一度くらいベスト8まで残ってくる公立高校だった。県で3本の指に入るようなバリバリの進学校。

今年はけっこう実力のある選手がそろっているみたいで、ダークホースかも、と和穂が試合前に言っていた。頭も良くて野球もできて、おまけに控えの2年生ホープはイケメンらしい。写メを見せてもらったけどたしかに整った顔をしていた。いったい和穂はどこでそういう写真を手に入れてくるのだろう。


後攻だ。気合のこもったかけ声が届いてすぐ、ダークブラウンの良質な絨毯の上にウチのナインがいっせいに飛び出してゆく。

朔也くんはセカンドベースとサードベースのあいだで両脚をぷらぷらと動かしていた。そわそわしているのが見てとれる。試合が待ちきれないって、全身で言っているみたい。


白い月明かりの下、切ない顔で、野球を好きだとそっと教えてくれたことを思い出していた。

とても、とても、好きなんだと思う。口にしたとたん泣いてしまうくらいに。どうしようもなく。なによりも、誰よりも、朔也くんは野球が好きなんだ。

わかっている。こんなにも、伝わってくるよ。

だから大丈夫。
ぜったい、大丈夫。


一番バッターが打ったショートゴロを難なく捌くと、朔也くんは立てた人差し指を胸の前で揺らした。ワンナウトだ。

続く二番はサードゴロに倒れ、ツーアウト・ランナー無し。
この試合はじめて塁に出たのは、きれいなセンター前ヒットを放った三番バッターだった。


「やばいね」


眉をしかめた和穂がぼそっと言う。


「かなり当たってる」

「うん、タイミング合ってるね……」


3人を終え、ここまで三振なし。上位打線とはいえなかなかマズイんじゃなかろうか。剛腕の市川は本来、文字通り力で抑えこむタイプで、打ち取ってアウトにする投手ではないのだ。