どんな顔をしているんだろう。帽子で隠れて顔がよく見えない。

あ、涼がなにかしゃべりかけた。答えるなり、朔也くんはちっちゃな頭をポコッと小突かれていた。

いつも通り、だと思う。たぶん……。


いきなり、じっと見ていた帽子のツバが上を向いた。ドンピシャで視線が合う。面食らってまばたきをくり返していると、日焼けした顔は、以前とまったく変わらずににぱっと笑った。

きのうの告白が、涙が、まるで嘘のように思えた。
そのくせ、あれは嘘じゃなかったんだと、その顔を見れば見るほどに思わされた。


「がんばって!」


スタンドからグラウンドへ、切羽詰まったみたいなわたしの声があわただしく転がり落ちてゆく。

今度は朔也くんのほうがびっくりしたようにまばたきをした。それから少し笑うと、声は出さないで力強くうなずいた。


「ばぁか」


かわりにしゃべったのはその隣にいたクラゲ男だ。


「言われなくてもがんばるに決まってるだろ」

「涼はしょうもないエラーしないようにね」

「エラーとか、生まれてこのかたしたことねー」


試合前だというのにつまらない嘘をついて笑っていやがる。


「応援たのむワ」


もともと切れ長の目をまぶしそうにさらに細めると、涼は風通しよくニッと笑った。球場を覆っている緊迫した空気にはまったく似合わない涼しい笑顔だった。まあ、名前が、涼だからね。

ひとりでくだらないことを考えていると、お調子者のセカンドは今度は相棒の頭をぐりぐりと撫でた。ショートが笑いを含んだような声を上げる。


ウチの二遊間は仲が良い。と、思う。

朔也くんの相棒が涼でよかったのかもしれない。良くも悪くも軽快に生きている男だから。

俺の前じゃ世の中ぜんぶたいしたことないぜって感じの態度には、たまにわたしも救われたりするもんね。なにか悩んでいても、涼としゃべっているとすべてがどうでもよくなってくる。いい感じに力が抜けるっていうか。


藤本涼という男の傍にいることで、あの少年は笑って野球を続けてこられたのかもしれない。半分くらいはほんとにそうなんじゃないかな。


ならんで挨拶する4番と6番を無性に尊く感じた。

朔也くんがきょうまで野球を続けてきたことと、その隣に涼がいたことは、きっととても意味のあるめぐりあわせだったんだと思う。