やがて監督さんによるチーム編成が終わると、部員たちはベンチからわらわらと散っていった。春日と涼は同じチームにいるようだった。ランダムでなく、一軍、二軍、というふうに分けられているみたいだ。きょうの結果によっては入れ替えがあるのだろう。
涼も、春日も、このまま一軍にいられたらいいけど。まあ、よっぽどのことがない限り、大丈夫だとは思うけど……。
それでも正捕手の彼女は隣で「気が気じゃないよ」とそわそわしている。そういえば、今年は春日のためにお守りを作るとはりきっていたけど、ちゃんと作って渡したんだろうか?
涼の隣にひときわ華奢な男子がいた。すぐにわかった。あれがショートの倉田くんだって。絶対、そうだ。間違いない。だってめちゃくちゃ『ちっこい』もん!
身長はわたしと変わらないくらいかな。170センチは絶対にないな。デカイやつらのなかにいるからそう見えるだけかもしれないけど、まず、肩幅がお粗末なほど小さい。
ほんとに正ショート? ほんとに“鉄壁”? そんな体格で、飛んでくる球を受け止められるの?
わたしの勝手すぎる心配をよそに、倉田くんは涼としゃべりながら笑っていた。とても屈託なく笑う男の子だ。いい子そう。純粋そう。涼と違って、1桁の背番号を自慢してまわったりするような子じゃないって、ひと目でわかる。
「健太朗も、藤本も、ケガもなく万全だって」
和穂が何気なく言った。
「倉田くんは?」
思わず、聞き返していた。和穂が目を見張る。そして探るようにわたしの顔をまじまじと見つめてくる。
「さっくんと面識あったっけ?」
サックン?
「倉田朔也(サクヤ)でしょ? 2年生ショートの」
サクヤくんと、いうのか。2年生なのか。あんまり小さいから1年生かと思っちゃった。
「ケガとか故障の話は特に聞いてないよ。関節がすっごいやわらかいんだって! 健太朗が言ってた。あいつは宇宙人だよって」
和穂の話を左耳で聞きながら、小さな宇宙人のことを目で追っていた。たまに涼に小突かれては子どもみたいに笑っている。涼がものすごくかわいがっているというのが伝わってくる。
倉田くんは、どんな野球をするんだろう?