「いや、たしかに上達するにはいいと思うけど……」
「ゆっくり弾けばいいっしょ?」
「…………」
 
おそらくなにを言っても一緒だろうと悟った私は、「まぁ……」と渋々頷く。
すると、ひょいっと軽く椅子の左端に座り、その半分から右をポンポンと叩く相良くん。

「なに?」
「ここ座って、左手だけで弾いてみて」
「なんで?」
 
私は腑に落ちず、首を傾げながら言われるまま腰を下ろす。
左手だけで、とはどういう意味だろうか。

「俺、左利きだから。それを真似て同じように弾いてみる」
「へ? それだけでいいの?」
「上達したら、ウサギは右手で俺は左手で、弾いて合わせよう」
「あぁ……」
 
たしかに、初心者にとって両手で弾くのは難しい。
それに、片手ずつで合わせて弾くのは満足感も楽しさもあるだろう。
相良くんは、すでに楽しそうだけれど。